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子どもに「揺れ動く世界」をどう見せるか

 砂浜に、身体をねじ込むようにもがき嘆く女が写っている
 左隅に、死斑とフナムシがびっしり付いた腕が写っている

 [ これ ]だ。2004年12月26日の、スマトラ島沖地震から数日後に、この写真を見た。ロイターだったのか。文字通り胸を抉られて鉛でも詰め込んだように重くなった(今も感じる)。この強い写真を忘れることはない。

揺れ動く世界 一枚の重さを実感する。1ページ1ページめくるのが難しい。事故、災害、戦争、テロ、科学、信仰、経済、生活、文化、切り取られた情景から、背後や周囲に広がる「音」や「風」を想像する。血とガソリンの匂い、瓦礫が崩れ空気が震える。21世紀になってずっと度肝を抜かされっぱなしだ。世界は暴力に満ちているが、わたしが思っているよりも濃度は高いことが分かる。

 ロイター写真集「The State of The World 揺れ動く世界」は、21世紀の最初の7年間を1冊にまとめ、次の世代が乗り越えるべき課題を示そうと企画された。世界中のフォトジャーナリストから集め、厳選した写真が9つのテーマでまとめられている。文字通り、「世界のありよう」が切り取られている。

  1. 大問題
  2. 科学技術
  3. 信仰のかたち
  4. パワーポリティクス
  5. 戦争と対立
  6. 世界経済
  7. デジタル時代の文化
  8. 人々の暮らし
  9. 過去と未来を見つめて
 なかでも、9.11の米同時多発テロで倒壊したWTCではためく星条旗の写真や、冒頭で紹介した、津波で親族を亡くした女性の写真はご覧になった方も多いかと。

 センセーショナルなものだけでなく、1枚の写真から考えさせるものもある。例えば、南アフリカの8歳の少女の「顔」だ。ケープタウンの黒人居住区の学校で初めてコンピュータに触れたときの「その顔」は、魔法そのものを見ているようだ。彼女の「驚き」に微笑むいっぽうで、裏を返せばそうした機会が奪われつづけていたんだよなとひとりごつ。

 報道写真ならではの1枚もある。ネットだけ見ていると陥る穴に気づく。

 それは、フセイン元大統領の絞首刑の場面だ。「Youtubeで観たよ」という方も多いだろう(わたしもその一人だ)。この写真が重要なのは、絞首刑のニュース番組を眺める人々を撮影しているところ。つまり、死刑イベントを見世物にして宗派間の対立を煽ろうとする意図が見える。

 Youtube に限らず、ネットの情報はあまりにダイレクトに届く。そのため、情報が「こちら側」でどのように利用されているのか、かえって見えない。メッセージの伝達にこれほど便利なネットが、メッセージの波及効果を把握しにくくしていることに気づく。「端末の前の観客」の後ろから撮られていることを意識する。

 ロイタージャパンによると、21世紀の7年間だけで280人以上のジャーナリストが取材活動中に死亡しており、うち10人が同社のジャーナリストだという。紛争を報道し、本書中の写真を撮影してきたジャーナリストらにとって、戦争報道がこれほど危険となった時代はかつてない。なかでもイラクは、ベトナムやアルジェリアをしのぎ、現代史上、ジャーナリストにとって最も危険な戦地となっている。

 残念ながら、21世紀の最初の7年を代表する写真は、血なまぐさいものばかりだ。この世界、この揺れ動く重い世界を、子どもにどうやって伝えようか。テレビや新聞の希釈された報道を「あたりまえ」だと思わないよう、ネットが全てだと信じないよう、いつ本書を見せようか。

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受信: 2010.09.13 10:49

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