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「コレラの時代の愛」で濃い正月を過ごす

コレラの時代の愛 51年9カ月と4日、女を待ち続けた男の話。正月に読んだ中でピカイチ。

 女は男を捨て、別の男(医者)と結婚し、子をつくり、孫までいる年齢になる。普通なら絶望して破滅するか、あきらめて別の人生を選ぶかだろうが、この男は待ち続ける。ヘタレ鳴海孝之の対極となる漢だ。

 現実ばなれした片恋をリアルに描くために、ガルシア・マルケスは周到に準備する。あ、だいじょうぶ、心配ご無用。「百年の孤独」のクラインの壷のような入り組んだ構成になっていないし、登場人物が多すぎてノートをとることもなく読めるから。

 1860~1930年代のコロンビアの地方都市が舞台。戦略的かつ長い長い恋物語を縦糸に、内戦や疫病におびえつつしたたかに生きる様々な階級のエピソードを横糸にして、ありえない物語を現実の中に据える手の込んだ技法を成功させている。

 時間処理の仕方が上手い。キャラクターを中心に背景をぐるりと回すカメラワーク(何ていったっけ?)を見るようだ。ひとまわりの背景にいた人物が次の中心となって、その周囲が回りだす。遊園地のコーヒーカップを次々と乗り移っているような感覚。

 象徴的なのは「コレラ = 死にいたる病」だな。もちろん、当時猛威を振るった伝染病としてのコレラと、そっくりの症状を見せる「恋の病」が掛けられている。片思いをする男のコレラのような恋患いだけでなく、恋のあまり死を選ぶ人々の生き様も伝染病そっくりなのが深いね。

 男子必読なトコは、「過去の女性遍歴を訊かれたとき、なんと答えるか」だろう。

 浮気がバレた夫(医者)は、妻に全てを包み隠さず告解する。いっぽう、半世紀以上も待ち続けた男は過去の女について問われると、「君のために童貞を守り通したんだよ」と答える(←超重要)。それが真実なのか嘘なのか、読者はもちろん知っているが、大切なのはそれを聞いた彼女が何と思ったのか、というところ。男子の方はぜひアタマに入れておきたいもの。

 一番ドキドキしたのはここ、新婚初夜、明かりをつけて男のイチモツを観察するシーン。

しかし、あの興味の対象である生き物をためらうことなくつかむと、右を向けたり、裏返したりして調べていたが、単に科学的な興味以上のものを抱きはじめたように思われた。最後にこういった。<<なんだか変な形ね、女性のものより醜いわ>>。彼は、たしかにその通りだと言い、醜いだけでなくほかにもいろいろと不便なことがあると言って、こう付け加えた。<<これは長男と同じなんだ。これのために一生働き続け、あらゆる物を犠牲にし、挙句の果てに結局これの言いなりになるんだからね>>。

 新潮社の中の人へ。誤訳(誤用?)らしきところを3点、再版時は直ってるといいね。

実のところコレラは肌の色や家柄に関わりなくその牙をむいた。はじまったときと同じように、突然流行が収まった。どれほど被害が出たのか見当もつかなかったが、確かめるすべがなかったからではなく、自分の不幸に関して語らないことが美徳であるという考えがわれわれの中に抜きがたくあるせいだった(p.165)

 ここの「われわれ」に違和感がある。もちろんイスパニア語なんてからっきしなんだけど、ここまで注意深く一人称を避けてきているのに、ここだけ「われわれ」が飛び出ている。原語では何て書いてあるんだろうね。

共和国大統領を三度務めた博士は哲学者にして詩人であり、国家の歌詞の作者でもあった(p.226)

typoでしょ、「国歌」が正解やね。

すでに彼が暗い中でワイシャツのボタンつけをしようとしていた。こういうことをしてもらうには、もうひとり妻がいるな、と彼が例の文句を口にする前に、彼女はあわててボタンをつけてやった。彼女が求めたのは背中の痛みをとるために瀉血してもらうことだけだった(p.497)

 転倒して背中を痛めているのは「彼」なので、瀉血してもらうのは「彼」ではないかと。

 人生も終わりになって気づくよりも、いま分かったのがありがたい一冊。超名作としてオススメしてた渡辺千賀サマは「女心を知り尽くしたマルケス」と評するけど、わたしは男視点から「あきらめたらそこで試合終了」だと思うぞ。ともあれ、正月早々濃い本を読ませていただきました、ありがとうございます >> 渡辺千賀さま

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