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病気に対する心の保険

 いま、わたしがガンで死んだら、けっこうな額の保険金が出る。交通事故に遭ってもしかり、不随状態になっても同様だ。大黒柱である以上、リスクヘッジは保険で対処している。

 しかし、精神的なものに相当する「保険」はかけていない。大きな病気やケガをしたり、後遺症に悩まされるような状況になったとき、わたしの心は耐えられるのだろうか? 受け入れるのに時間がかかるだろうし、ガンのような「期限つき」の場合、パニックになるかもしれない。

 あるいは、家族や周囲へのインパクトも大きい。保険金という「カネ」はあれども、治療費がどこまでいくのか見えない。そもそも大黒柱を失った(失いそう)な状況に、精神的にまいってしまうかもしれない。

 さらに、病気やケガそのものは医者にまかせるとしても、その医者を信用するためにわたしはどうすればいいのか? という疑問は残る。思考を停止して医者任せがいいのか、Dr.google を読み漁るのがいいのか、それこそ闘病ブログで有志を募ったり募られたりするのか。

 たとえば、闘病ブログは盛況だけど、切れ切れの情報の積み重ねでしかない。「いま」闘病のスタートを切った人との時間差・温度差は確かにある。更新者が快癒したり死亡したときが、更新が止まるタイミングなので、過去ログから苦労して読んできてもプツっと切れていることが多い。

 そういう前提で、ブックマークに入れておきたいサイトを見つけたのでご紹介。

  闘病記ライブラリー

 ここには700冊の闘病記が紹介されている。治療の体験記を病名から探せるため、文献をあさるためにやみくもにgoogleるよりも、入口をここにするほうが、全体が見通せてよいかもしれない。

 このサイトはNPO法人「連想出版」が運営しているが、実際の本は都立中央図書館(東京都港区)に集められている(もちろん、疾患ごとに配置されており、病名から本を見つけ、実際に手にとることができる)。

 いま読まなくても、将来読むことを考えておく。心の保険としておきたい。

*

 興味深いのが、これと似たようなサービスは、ニューヨーク公共図書館の報告で知ったということ。以前のエントリ「図書館で夢をかなえた人々」にある、

 医者+司書によるサイトの構築。医療情報はネットにあるが、散在している状態。書籍だと集中しているが、横断性に欠ける。例:ガンの治療+副作用+本人のケア+家族のケア+保険+闘病生活… といった同一のテーマをもとに深堀りと収集できる「場」を、ネットと書籍という形で提供

 ―― と微妙に一致している。上記は2001年の岩波新書でレポートされているし、「闘病記ライブラリー」は、2006.6から始まっているようだ。両者に何らかの伝播が働いたのであれば、なんだか嬉しい。

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図書館で夢をかなえた人々

 結婚前までアンチ図書館派だった。本は買って読むものであって、身銭を切ってこそ選書眼も養われるというもの。金なくば食費を削れ、餓えて読め、というのが信条だった。

 それが、図書館ヘビーユーザーの嫁さんの影響を受け、図書館主義者になった。書店の棚はコマーシャリズムに汚濁されたノイズまみれ。自分で本を探せない奴が本屋を徘徊する、などとうそぶく。180度転向の経緯は[ここ]に書いた。

 探す: 都内の図書館を横断的にネットで検索[これ]する。当面読みたい本は近所の図書館でたいてい手に入る。どうしてもという場合は国会図書館から取り寄せてもらう。

 予約: 実は複数のアカウントを持っている。住んでるところ、勤務先、通勤ルートと複数の区をまたがるため、それぞれなじみの図書館がある。予約は全てネット。巡回先で嗅ぎつけた本や、積読リストの上位から予約枠を埋める。確保できたらメールが入るという仕掛けなので、早い場合1~2日でgetできる。

 読む: 買った本ではないので、壁投げ本や糞本も笑顔でうっちゃれる。買った本の場合、けなすためにも少なくとも一読しなきゃという強迫観念があったが、図書館のおかげで霧消した。どんなに前評判がよくても、「途中でやめる」ことができるのは、大きな強み。身銭を切らなくなったことでハードルが下がり、ヒット率が低下したことは否定しないが、いっぽうで、大ヒット率は大幅にUPしている。

 返す: 返す日は予約した本を借りる日でもある。必ずチェックしているのは、2つのワゴン→「たった今返却され、そのうち書架に戻される本」と「予約され確保され、貸し出しを待つばかりの本」←これこそが本当のベストセラーだろう。ベストセラーももちろんあるが、地域性や世情が如実に表れている。

 かつて一人暮らししてた頃は「コンビニを冷蔵庫代わり」だったが、今は「図書館は自分の本棚」という発想。しかも、時間というフィルターで漉された書架。オレ好みに染めたい気持ちをグっと押さえつつ、いつ行っても新しい発見がある。なじみの司書さんはさしずめ本のソムリエ。時代を超えた「売れスジ」を指し示してくれる。

未来をつくる図書館 そんな図書館を満喫していたところ、面白いレポートを教えてもらった→「未来をつくる図書館」、ニューヨーク公共図書館が紹介されており、とても興味深く読めた(ichihaku さん、教えていただきありがとうございます)。

 まとめてしまうと、「図書館」という枠を突破し、知的インフラを構築しようとする試みが描かれている。ビジネスインキュベーターとしての図書館、行政機関の窓口としての図書館、地域情報のセンターとしての図書館、芸術に貢献する図書館と、さまざまな試みが紹介されている

  1. 電源+モジュラー完備、ノートパソコン持込OKの目録室
  2. 講座+書籍の企画。起業のためのビジネス講座を図書館が主催し、ビジネスプランニング、資金調達、マーケティングの講座を無償で受講できる
  3. 図書館そのものを利用するためのスキル講座。資料目録やデータベースの使い方だけでなく、ネットエンジンの検索スキル、情報の評価法、キャリア情報やビジネス情報の探し方、行政情報のアクセス法、特許検索などビジネス関連が盛りだくさん
  4. 音+映像の図書館。舞台芸術のためのアーカイブ機能。音楽や映像などのドキュメンタリー機能の収集・保管・分類・検索へのindex
  5. ドキュメンタリー作品の上映+製作者の講演会。「芸術のメッカ」ニューヨークを意識した場を提供する
  6. 医者+司書によるサイトの構築。医療情報はネットにあるが、散在している状態。書籍だと集中しているが、横断性に欠ける。例:ガンの治療+副作用+本人のケア+家族のケア+保険+闘病生活… といった同一のテーマをもとに深堀りと収集できる「場」を、ネットと書籍という形で提供
  7. 図書館+学校。授業設計や教材作りのための「教師コーナー」。司書が厳選した教師向けの情報テクノロジー、教員の能力開発、書評、文学、関連雑誌、データベース、教師向け研修の提供(本を読まなくなったのは、生徒だけじゃない)
  8. 「おしゃべり歓迎」+「カフェのような」図書室もある。学校帰りの子どもたちに図書室を開放して、宿題を片付けたり、コンピュータでレポートを書いたり、勉強しながら友達と意見交換したりする「場」を提供。静粛でないブルックリン公立図書館

 後半になるにつれ、代表的な知のインフラgoogleの試行をホーフツとさせる。google+図書館はとても近しい(もう組んでいたりして)。

 このエントリ名の「図書館で夢をかなえた人々」は序章の題名でもある。ニューヨーク公共図書館からは、アメリカを代表するビジネスが数多く巣立っている。たとえば…

  • ゼロックスのコピー機は、特許関係の仕事をしていた弁護士が、「膨大な数の特許を複写する機械があれば書き写すたびに間違いがないかを確認する手間が省ける」との漠然としたアイデアをもとに、図書館で資料を読みあさり、ある文献をヒントに静止画像の特許を取得したことに始まる
  • 航空会社の草分けであるパンアメリカン航空は、飛行機好きの創設者が地図部門でハワイとグアムの間の島を発見、そこを給油基地にすればグアムまで飛行機を飛ばせると考えたことが世界初の太平洋線開設のきっかけとなった

 ほかにも、図書館に集まってくる雑誌のダイジェスト版があれば便利だろうというアイディアで始められた「リーダーズダイジェスト」など、図書館を活用してビジネスを生み出した人は少なくない。

 著者はニューヨークの図書館を絶賛するいっぽう、返す刀で日本の図書館を切り伏せている… んが、ニューヨークの図書館の多彩な「機能」」は、行政機関としての役割が日本と違うだけなんじゃぁないかと。ニューヨークと比較するなら、東京の図書館もスゴいよ、とヒトコト申し述べておきたい。

 本書のレジュメは[ここ]にある。また、著者の産業経済研究所での活動は[ここ]あたりで一覧化されている(いい仕事しているなぁ…)。

 そこに、未来の図書館を垣間見るかもしれない。

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テレビやゲームは頭を良くする

ダメなものは、タメになる 「今の若者がバカばかりなのは、テレビやゲームばかりやっているからだ」「ケータイが語彙を貧弱にし、日本語を壊す」といった論は、飽きた。喰いつきやすく、燃えやすいが、二項対立水掛け論は見えてるから。ウチダ先生あたりが新書で小金を稼ぐのにちょうどいいネタ。

 それが、同じネタでユニークな本が出ている。これまでと真逆なところが良い。

 テレビやゲームは頭を良くするそうな。最近の翔んだ識者がふりまわす「ゲーム脳」「ネット漬け」に真っ向から反論するのみならず、攻め込んでいるところが痛快ナリ。どこのコミュニティにも必ず一人はいるアマノジャ君の戯言かと思いきや、家庭用ゲーム、テレビドラマ、ネットコミュニティを例に挙げ、えらく説得力ある論を展開する。

 骨子はこれ↓

  1. 昔と比較すると、ゲームやテレビドラマは複雑化している。楽しむためには、一定の知的水準を要求するようになっている
  2. そうした複雑化するゲームやテレビドラマに「訓練」されることで、パターン認識能力や仮説検証能力が磨かれている
  3. この知的水準の底上げは全体的になされているため、「見えない」

 はしょりすぎなので、例を挙げる。

 例えば、テレビドラマ「24」「ER」。同時多発的に複数のストーリーが交錯し、視聴者に対し、複雑な人間関係と時系列・因果関係を把握することを強いる。昔のドラマは平坦な一本調子でよかったが、今は違う。ドラマを楽しむための知的な要求水準は高まっているそうな

 あるいは、「ゼルダの伝説 風のタクト」。同時に存在する目的(ダンジョン探索・アイテム使用で進める場所・目の前の敵・目の前の仕掛け)が入れ子状になっており、その中から最適なルートを仮説→検証する。これは、「ドットを全部食べる」「Powを食べたらモンスターを食べられる」だけで成り立っているパックマンとえらく違う。パターンと反射神経だけで、ゼルダはクリアできない。

 そういう話が山と出てくる。根拠のデータもいちいち説得力があって、「ゲーム脳」でご飯食べさせてもらっている学者くずれに読ませてやりたい一冊。そうだよそうだよ、と思わずうなづくこと十回、さらに「わたしならこう考える!」と議論したくなること二十回…

 例えば、「ゲームはキレやすい子どもをつくる」というが、UOやってみそ。スキル上げにどれだけ地道な作業を要するか…。あるいはポケモン集めがどんだけ大変か、やった人なら分るはず、イマドキのゲームは、根気がない奴にはできない仕様になっている

 また、「いまどきの若者は本を読まなくなっており、語彙力が低下している」とまことしやかに言う人がいるが、それは紙に書いた文章を読んでいないだけ。ディスプレイ(PC/携帯)の文を含めると、今の若者は昔よりもはるかに多くの文章を読んでいる。むしろ多すぎるぐらいで、効率よく内容を吸収するための取捨選択能力は、「いまどきの若者は本を読まない」と嘆く団塊どもよりも、ずっと優れていると思うぞ。

 DSの脳トレや「LOST」や「バフィー恋する十字架」、ガンダム・エヴァが無いなぁ、と思っていたら、あとがきでちゃんと出てくる。うむうむ、わかっていらっしゃる。もっと踏み込んでいいなら、あまりにも「キャッチ22」的な京アニ「涼宮ハルヒの憂鬱」や、お子さまお断り「仮面ライダー555」の敵味方入り乱れっぷり、知恵熱を発するほど究極の叙述形式「Ever17」の多層性など、いくらでも語りたくなる。

 このテの議論には飽いたわたしが、思わず身を乗り出してしまうような一冊。あなたが読むと絶対何か言いたくなる一冊でもある。

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