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宇宙は作れるか?「神様のパズル」

神様のパズル ヒトコトで言うと、理系青春小説。ライトノベルにちょうどいい重さなのに、ラノベ扱いされることを拒絶しているような小説。

 ひきこもり天才美少女とダメ学生(4回生男)が挑む宇宙の作り方。青春モノで味付けしたハードSFは斬新かも。ブレるとハルヒになるが、てんこ盛りの現代物理学ネタでがんばって回避、書き手の勉強っぷりがうかがい知れる。以下amazon紹介より。

留年寸前の僕が担当教授から命じられたのは、不登校の女子学生・穂瑞沙羅華をゼミに参加させるようにとの無理難題だった。天才さゆえに大学側も持て余し気味という穂瑞。だが、究極の疑問「宇宙を作ることはできるのか?」をぶつけてみたところ、なんと彼女は、ゼミに現れたのだ。僕は穂瑞と同じチームで、宇宙が作れることを立証しなければならないことになるのだが…

 ツンデレ天才美少女が面白い。西尾維新あたりに出てきそうだ。ただしこの美少女、ラノベだと予定調和的に弄られるのが、(作者の意向なのか)かなり酷い目に遭う。しかも語り手の学生が完璧に傍観者なので、もどかしいといよりもあきらめに近い感覚で読まされる。

 ゼミのオリエンテーションや、大型放射光施設の説明なんて、懐かしさと新しさがまぜこぜになっててわくわくした。「宇宙は作れるか?」をテーマにするゼミなんて、フツーないぞ。学生のヌルさと研究の厳しさが混じり合うゼミの空気が上手く書けている。また、国家プロジェクトの放射光施設が妙にリアルだ、SPring-8だろうか。田んぼの「上」に施設があるイメージ。

 実際に「宇宙を作る」ところは、ちょっと興奮。うん、成否は別として、人が作ろうとするならば、この天才少女がやったような手順を踏もうとするだろうなぁ… イーガン御大なら○○を持ってくるだろうなぁ…とタメ息。

 残念なのは、最初にあれだけ魅力的なキャラ設置をしていたのに、ラストでは全属性(キャラクターをその人なしえていた特徴)を剥ぎ取ってしまったところ。このオチ、扉の惹句でこの本読もうとする奴が求めるかね。

 このblogの読者なら、「オレならこう書くのに…」と妄想をはじめること請合う。読後感は、爽やかなカタルシスと遠い分、つい自分でキャラをいじくりたくなる。あるいはトンデモ理論に振り回された分、自分で宇宙を作りたくなるかも。


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いつか見た「最後から二番目の真実」

最後から二番目の真実 もちろん「ブレードランナー」や「トータル・リコール」から入ったP.K.ディックなので、本書も頭ン中でビジュアライズして読めた―― というか、別の映画のシーンが脳内イメージに割り込んできて困った困った。

 テーマはいつもどおり、「つくりものの現実」。

世界核戦争。地上を汚染する放射能をのがれ、人々は地下にひそみ、戦闘用ロボットの生産に追われている。そのロボットが地上で戦い、ときおり流される映画で様子をうかがい知るのだった… というのは真っ赤なウソ。戦争はとうに終結しており、地上は、ごく限られた特権階級が支配する世界だった…

 権力者が大衆を騙す、その道具としての映画は、ベルリンオリンピックの「民族の祭典」のみならず、「フリッカー、あるいは映画の魔」がチラついてしょうがない。地下に潜んだ人々の描写はオーウェル「1984」をホウフツとさせらるし、戦争プロパガンダが書けずに呻吟するシーンなんて、「未来世紀ブラジル」のイメージが取って代わる。

 もちろん地下住民が作り出す人型ロボットは、どう見てもレプリカント。そいつが粉々になるところはオビ=ワン・ケノービ初登場のシーンを思い出し、ラストの映画の上映を待つところは―― 思い出せネェ、ひょっとすると未だ観ぬ映画とシンクロしようとしているのかも。でっかい風呂敷をおっぴろげ、いろんなものを詰め込んで、なんとか破綻せずにラストに駆け込む(ラストも映画的だぁ)。やめられない止まらない。

 ただし、エンターテイメントとしての完成度はアレなところがある。あれだけの荒唐無稽を、ぜんぶ脇役のモノローグで明かしてしまったりしており、もったいない。仕掛けや設定に語らせる小説に慣れた舌には、大味すぎて拍子抜けするところもある。

 ごっつユニークなガジェット―― 時間掘削機やゲシュタルト偽造機、あるいは恒常性向人性矢弾や構文機といった道具が沢山でてくるのよ。これらを使って、一種ミステリ仕立てにしても良かったろうに―― という目で読むと雰囲気ぶち壊しなので、好きな人はあれこれ考えずに読むべし。「暗闇の『スキャナー」・ダークリー』が読みながら奇妙な気分になったのとは反対に、このラストはなかなか好き。SFとは近未来なのだと正しく理解できる。ありもしない脅威をでっちあげることは当局にて織り込み済みだから、ね

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陸上自衛隊作戦幕僚の情報理論「オペレーショナル・インテリジェンス」

オペレーショナルインテリジェンス 陸上自衛隊の情報幕僚が「情報」をどのように扱っているか、守秘義務ギリギリで明かしてくれる一冊。わたしが何気なく使っている「情報」とは違った立ち位置なので、えらく新鮮に読めた。総務・人事やエグゼクティブが、経営関連の情報をどうやってスキミング・評価して使うかという腹積もりで読むと、得るところ大だろう。

 例えば、「情報収集の基本は公開情報から」の原則。公開情報が占めるイメージを可視化すると、こうなる。見事に80/20の原則に従っているが、事実と類推情報のバランスは想像していたのとずいぶん異なっている。

 さらに、オペレーショナル・インテリジェンス―― 作戦情報の原則がスゴい。決められることを今決めることだそうな。つまり、決断と判断においては、どこまで決定できるのかを先行的に決めておく。つまり、「何をいつ決めるのかを、いま決めよ」というのだ。作戦遂行時は状況が次々と変わってゆく、しかもクリティカルに。あと数分でミサイルが着弾するのであれば、「上司に相談」しているヒマなんてない。

 だから、メタ決定(何を決めるとかいつまでに決めるとか)は、「今」決めておけというわけ。ビジネスだとマネジメントプロセスやエスカレーションプロセスが相当する。本書には、「軍隊用語<->企業活動の読替えリスト」なるものがあるが、歴然とした温度差がある。

 使命=組織が本膳的に持っている恒久的な仕事
 任務=特定の状況において達成しようとする仕事
 作戦=事業
 敵=競合企業
 戦場=市場

 特に、情報の確度や精度だけでなく、鮮度や偽情報の可能性までをも考慮して「情報を使う」姿勢は、全く異質の世界。情報の収集、整理、吟味、判断、そして意思決定に寄与させるまでの手順と実践(失敗例も!)を明かしている。「米陸軍指揮参謀大学の講義内容を初公開」という惹句はダテじゃない。情報への意識の向け方について学ぶところが多かった。

 ビジネスの世界と違えども、競争戦略(エグゼクティブレベル)になれば、以下の情報収集活動のセオリーは使えるんじゃないかと。いわゆる産業スパイではなく、公開情報を元にした収集活動という意味でね。

  • ドキュメント(文書)
  • イミント(図画、写真、映像)
  • サブスタンス(実物)
  • レフレクション(弾痕、弾道・飛翔・航跡解析、反映・波紋と投影)
  • ヒューミント(隠密刺殺、謀略・工作、尾行、聞き込み・抱き込み)
  • コミント(通信傍受、通信標定、暗号解析、インターネット解析)
  • エリント(すべての電子情報、電波発信所の位置・能力の解析)
 レフレクションを得るセオリーの例をひとつ。レフレクションを得るために、わざと偽の攻撃を仕掛けたり、撹乱したり、無理難題や逆に甘い話を流したりして、相手の反応を見る。情報が漏えいしている可能性がある場合は、一部だけ偽の情報を載せておき、相手の動きにより漏えい箇所を特定する。スパイ小説では基本ネタだが、リアルだと言葉どおり死活問題となる。フィクションではない、生々しい実例つきで紹介している。

 興味深いのは、インターネットの位置付け。情報収集活動で、これほど便利なインフラはなかろう…と思っていたのだが、著者はそれほど重きを置いていない。なんで? もともとARPANETは軍事モノだったんでしょ?

インターネットはその性格上、「状況伝達」しか得られない仕掛けとなっている。情報の重心をインターネットにかけることは非常にアンバランスで危険

 情報を「伝達」のためのインターネットは、情報「収集」活動とは似て非なるものってわけか…たしかに。ネットに転がる情報は、ネットの情報として接しなさい、他の公開チャネルと同様に―― と理解した。

 インターネットで得られる「見える・記録できる・伝達できる」情報のほかに、「記録・伝達できない」情報があり、むしろ後者の方が重要だという。いわゆる第六感というやつ。第六感、情感、恐怖感も駆使して、収集・判断すべしと説く。

 情報を「使う」ときも容赦ない。原則は、「情報は情報を使う能力のある人に伝えろ」という。自分とこで握りつぶしてしまったり、腐らせたり(情報はナマモノ)、ひいては「リスクのある情報をもってくるな!」と逆ギレするような上司なら、最初から渡さないほうがお互いのためだという。

 まだある。

  • 「オオカミ少年」にならないための耳打ちメソッド。不確実性のある情報を鮮度あるうちに届ける(しかもリスク込み伝える)…情報幕僚として必須のスキル
  • 敵の戦闘効率と可能行動を推定する「情報見積」という概念(アドバンスド大戦略の思考ルーチンだが、ここまでシステマティックになっているとは)
  • ジョージ・パットン将軍「将来の将軍たちは状況に適合するように作戦計画を作るだろうが、計画に適合するように状況を作ろうとはしない」(War As I Know It,1947)
  • 情報見積から作成する兆候表(可能性とアクションのシナリオ)――名前は違うが、プロジェクト・リスクマネジメントそのものやね
 陸上自衛隊の情報幕僚という、知らない世界を通じることで「情報」との取り組み方に別の視線が得られる。インテリジェンスの現場は、やっぱり泥臭い。

 以下、目次を掲げる。IT業界でいう「情報」とはまるで違う「インフォー」が飛び交う世界をちょっとだけ嗅ぎとれるかも。

第1章 情報活動は「知恵の戦い」である
 1 知識の玉石を区分する
    知識と情報の違い
    情報資料は処理されていない知識
    軍事用語と経営用語
 2 情報化時代の問題点
    情報・情報資料をどう取り扱うか
    インターネットは「状況伝達」を目的にしている
    欲しい情報は簡単には入手できない
    情報資料の穴を見抜け
    情報は操作される
    情報伝達を複雑にする
 3 情報活動はサイクル活動である
    事例1 父親が購入する車の情報を集める
    何を判断して、何を決断するのか
 4 情報活動の要則
    周到な準備
    事例2 1921年から対日戦争の準備をしていた米軍情報部
    タイムリーでなければ
    事例3 ロンメルが偽戦車を見抜けた理由
    継続的な定点観測
    事例4 電報傍受でわかった中ソ緊張
    事例5 缶詰と医薬品会社の株価で作戦開始を推定
    冷めた眼力
第2章 どんな情報を欲しいかを決める――情報の要求
 1 何を要求するか
    「敵」「味方」「戦場」
    得意技を基準に
 2 情報収集計画の作成
    兆候表を作成する
    収集任務を配分する
    収集命令
    事例6 情報収集の穴が空いたミッドウェイ海戦
    事例7 的を絞って北朝鮮軍の実行能力を判定
第3章 五感を駆使し集める――情報資料の収集
 1 資料源を開拓する
    様々な資料源
    記録・伝達できない知識
    事例8 インディアン兵士が気づいた「敵」の臭い
    事例9 数値化不能の戦場もある
    事例10 ロンメルの戦局眼
 2 資料を収集する
    情報収集を他国に依存しない
    状況の四分の三は霧の中
    収集の三つの手段・方法
    事例11 ドイツ勝利を信じきっていた大本営
    公開情報からスタート
    捜索と偵察、監視と追跡
    事例12 逃げた猿の捜し方
    事例13 定点観測でソ連侵攻を察知
    事例14 初代万景峰号を視察
    識別と標定
    暗号解読
    事例15 引き出せなかったマルコス闇資金
    類推する情報資料ー影と波紋
    収集活動の評価
    事例16 大量の棺桶製造でわかったヒトラーのソ連侵攻
    事例17 戦史研究でわかったイラン・イラク戦争の長期化
 3 報告・通報・警報の注意点
第4章 信頼性・正確性の評価をする――情報資料の処理
 1 認識はすべて経験をもって始まる
    頭脳という工場
    情報資料処理の手順
 2 資料処理は二段階ある
    一時処理ー受付と選別
    二次処理ー信頼性と正確性の格付け
 3 情報を作成する
    修正して一品料理を作る
    情報見積を作る
第5章 「伝達の壁」を超える――情報の使用
 1「伝達の壁」
    情報は情報を使う能力のある人に伝える
    民主主義と情報処理の能力
    タイミング良く
    事例18 上司交替で情報伝達を失敗
    「まさか!」の坂は本当の坂
    事例19 フォークランド紛争は予知できていた
    事例20 ガダルカナルへの米軍上陸を軽んじた大本営
    事例21 情報参謀の報告を無視して失敗した米軍
 2 作戦会議
    作戦と情報の吻合
    作戦指導の基本姿勢
 3 情報をブリーフィングする
    結論と根拠を示す
    事例22 ブリーフィングがうまくいったよど号ハイジャック対策本部
    ブリーフィングはキャッチボール
 4 その他の情報使用
    会議の主導権を握る
    情報の交換は判断力の交換
    事例23 態度が一変した米太平洋軍
    観測気球を揚げる
    事例24 ドイツ群の観測気球に騙された英軍
    宣伝と世論操作
第6章 情報活動の組織
 1 目のない動物は歩けない
    IT化は現場から
    駐在武官、観戦武官、留学生の役割
    事例25 インド留学時の情報収集
    事例26 海外駐在の落とし穴
    事例27 韓国情報筋との接触
 2 情報活動の保全
    情報保全の原則
    対テロ戦は情報戦である
終章 世界の見方・考え方の原則
    性悪説と性善説の間
    「地政学」で見る
    「政権体質」で見る
    「現状維持と打破」で見る
あとがき

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