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なぜ「ブラッカムの爆撃機」は児童書なのか?

ブラッカムの爆撃機 じいさんの軽妙な語り口に、リアルな戦争の日常がある。吸い込まれるように読む。

 児童書なのに爆撃機がテーマという不思議 ―― と思って手にとるとラストでニヤリ。何のお話なのか瀬踏みしながら読むのも愉しみの一つなので、予備知識なしでどうぞ。不用意にネットを漁るとネタバレを読まされるのでご注意。

 イギリスの爆撃機を描いた物語に、宮崎駿氏の手による解説マンガつき(←実は、こっちが目当てだったりする)。宮崎氏が描いた、「ブラッカムの爆撃機」の見取り図は、なめるように見入った。

 ロバート・ウェストールといえば「かかし」なのだが、未読だったりする。書き味が上手いねぇ、この人。飛行機内部の臭いの描写や窓からの景色、あとインターコムを通じた音の聞こえ方がとてもリアル。宮崎氏が指摘するように、「頭の中で何度も爆撃機を飛ばした」んだろう。

 さらに、展開の緩急が上手。戦闘シーンは細かいところまでキッチリ書くし(なんせ、アドレナリンが出てるから"よく見える"んだろう)、ベーコンエッグを食べに行くところなんて、のんびりしたおいしそうな空気までが伝わってくる。

 児童書なんだけど爆撃機・戦争がテーマである理由は、解説で明かされている。

殺菌され無菌化された政治倫理のルールブックとしてではなく、この世を生き抜くためのサバイバルキットとして役立つ、フィクションが必要だと

「どうしたら子どもたちに、希望を裏切ることなく真実を伝えられるだろう? 」

 アニメーションがあるではないか、とつぶやく側から、宮崎氏の手引きで本書を読む気になったことを思い出して苦笑する。表題作はジブリ向きだが、わたしはもうひとつの短編「チャス・マッギルの幽霊」の方が鮮やかだなぁ、と気に入っている。児童書おそるべし。「かかし」に手を出すか。

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東大教師が新入生にすすめる100冊

 昨年の「東大教官がすすめる100冊」の2007年版。企画の趣旨は以下のとおり。

■企画「東大教師が新入生にすすめる100冊」の趣旨

 東大教師が選んだ新入生向けのブックリストとして、新書「東大教官が新入生すすめる本」と、紀伊國屋書店のサイト[参照]がある。全部で2100冊程と膨大なので、まとめる。まとめるだけでは面白くないので、100冊に絞ってランキングする。

 新書もサイトも、「ただ並べてあるだけ」なので非常に見づらい。さらに、くりかえしオススメされる本の「重み」が見えないため、以下の基準で編集→ランキングする。

  • 年を越えてオススメされる本は、それぞれ1票としてカウント
  • 複数の教官にオススメされる本は、それぞれ1票としてカウント
  • 全集・分冊は丸めて1冊にした。ただし、全集の中の特定巻を指してある場合は「ソコを読め」というメッセージなので別枠とした
  • 参照元では「文系」「理系」と分けているが、混ぜてある(文理別は血液型占い並に無用)
  • 得票数が2票以下ものが非常に多い。2票以下はわたしの独断で選んだ(2007年ランキングでは、44位以降がわたしの選択)

 上記は2006年版のもので、2007年版では以下の方針で編集している。

■2007年版の編集方針

  1. 東京大学出版会「UP」2007年4月号「東大教師が新入生にすすめる本」を反映
  2. 東京大学出版会の本を外した
  3. 同名異著者の本をダブルカウントするエラーを回避した

 1.について : 参照元は[ここ]。さすが東大教師、カタい本ばかり紹介する方もいれば、ミステリ(しかも古ッ)を衒いなくオススメする人もいる。大勢に影響はないけれど、最新版にした。

 2.について : 駒場の人にはおなじみかもしれないけれど、いわゆる教科書なのでパス。一般教養書として優れたものもあるので、ご興味のある方は「東京大学出版会」もしくは「東大出版」でまとめファイル(文末にリンク)をフィルタリングしてみては。

 3.について : では、同名異著者の本をダブルカウントしている。その結果、昨年のランキングでエラーがある。例えば…

  第2位 量子力学(レフ・ダヴィドヴィッチ・ランダウ)
  第7位 解析入門(セルジュ・ラング)

 「量子力学」は朝永先生の方を挙げるべきだし、「解析入門」は杉浦先生版が得票多し。同書名に集まった票が割れるので順位が変わってくる。今回は「名前+著者名」でソートした。

 こうやって一覧化すると、自分がいかに読んでないかがよーく分かる。内なる声も読めといい、欲望はいっこうに衰えてないにもかかわらず、いまだに読めていない本が沢山ある。幸せなのか、ふしあわせなのか分からないが。人生は有限だ。そしてわたしは、このことをよく忘れる

 それでは、東大教師が新入生にすすめる100冊、2007年版、どうぞ。

続きを読む "東大教師が新入生にすすめる100冊"

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「女王陛下のユリシーズ号」は、スゴ本+徹夜小説

女王陛下のユリシーズ号 狂喜セヨ、いや「狂気セヨ」なのかもしれない。それこそ狂気のように読んだ、もちろん徹夜。ただし、翌朝目が真っ赤になったのは、震えて泣きながら読んだから。

 裏表紙の紹介文より――

援ソ物資を積んで北極海をゆく連合軍輸送船団。その護送にあたる英国巡洋艦ユリシーズ号は、先の二度の航海で疲弊しきっていた。だが、病をおして艦橋に立つヴァレリー艦長以下、疲労困憊の乗組員七百数十名に対し、極寒の海は仮借ない猛威をふるう。しかも前途に待ち受けるのは、空前の大暴風雨、そしてUボート群と爆撃機だった…

鋼鉄の意志をもつ男たちの姿を、克明な自然描写で描破した海洋冒険小説の不朽の名作

 しかしながら、レビューすることはほとんど無い。「凄絶な戦艦戦」とか「苛烈な自然の猛威」といった惹句を並べても自分で空々しい。書き口が「淡々+冷酷」、展開も容赦なし←これで充分。たとえば、きっと夢に見るだろうと恐れている場面(のひとつ)はこうだ。

火の海であった。何百トンという燃料油の流れた海面は、しずかで、平坦で、めらめらとねじれて燃えさかる焔の大絨毯だった。一瞬、ヴァレリーの見たものはそれであり、それだけであった。が、つぎの瞬間、胸が悪くなるほど不意に、そして心臓がとまるほどの衝撃をもって、彼はほかのものを見た。

燃える海は、もがき泳ぐ人間でいっぱいなのだ。ひとにぎりとか数十人とかいうのではない。文字どおり何百人もの人間が、溺死と焼死という残酷なまでに相反する死にかたで、声にならない声で絶叫し、あがき悶えて息絶えていくのだった。

 悪夢に出てくるのは、このあとのユリシーズがとった行動なのだが、これは序盤であることを申し添えておく。注意していただきたいのは、カタルシスのための描写ではないこと。安易な感情移入を完璧なまでに拒んでいる。訳者はこう言う、「アメリカ人はこんな小説を書けもしないし、書きもしないだろう」――激しく同意!エンターテイメントに飢えている人は、ソコんところ気をつけて。

 本書は、企画「徹夜小説を探せ」でjackal さんにご紹介いただいたもの。あたり本を教えていただき、大感謝です > jackal さん

 面白いことに、本書には、ハヤカワノヴェルズにつきものの「人物紹介」がない。代わりに、ユリシーズ艦内配置図と航路図がある。まさにユリシーズ号そのものが主役なのか!? 乗組員は添え物なのか―― と読むのだが、二重に誤っていたことを告白する。そして、未読の読者のために、人名をメモっていたが―― 涙で、ああちくしょう、そんなもの!

 ページを惜しみながら読むがいい、ハンカチではなくタオルを用意して。


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