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図書館に訊け

 以前のエントリ[参照]で「司書は本のソムリエ」と書いたが、今回はその具体例を紹介しよう。

 それは、「知りたいことを図書館に問い合わせると、調べてくれるサービス」、すなわちレファレンスサービスだ。例えば、こんな「困った」はないだろうか?

  • 自分で調べるのはめんどう
  • どうやって調べてよいか分からない
  • 疑問のテーマがあまりに広いため、絞り込めない
  • この本に書いてあるらしいが、どのあたりか分からない(全部読みたくない)

 こうした疑問をぶつけると、専門家が調べて答えてくれるサービスだ。もちろん図書館が行っているため、本に関する質問には強力に答えてくれる。例えば、

  • ○○という小説家が好きだけど、似た作風の人はいない?
  • あらすじは覚えているけれど題名を忘れてしまった本を知りたい

 ―― などが典型的。「はてな」の人力検索サービスや、「Yahoo知恵袋」、あるいは「教えて!goo」などが思い浮かぶが、こいつは完全無料。しかも調べることといえば右に出るものがいないプロが調べてくれる。

 質問するためには、図書館のアカウントが必要だが、だいたい1週間程度で回答がくる。所定の用紙で受け付ける図書館もあれば、ネット経由でOKというのもある。まずは近所の図書館に訊いてみよう。

質 問:人間の精子と汐の満ち引きの関係について書かれた資料はないか。

回 答:月と精子の関係について書かれた資料はなし。月と男性ホルモン・月経・生殖に関する記述ならあり。

  • 脳に眠る「月のリズム」 : 最新・時間生物学入門 / 喰代栄一著 / 光文社 , 1993.12 p53-55「男性にも月周期のリズムがある」他
  • 月の魔力 / A.L.リーバー著 . 増補 / 東京書籍 , 1996.10 p81-83「生殖サイクルと月」,161-164「体内水分、神経組織への引力の影響」他
  • 月世界大全 : 太古の神話から現代の宇宙科学まで / ダイアナ・ブル-トン著 / 青土社 , 1996.11 p54-61「豊饒の月」「男性と月」他
  • 月の誘惑 : 私たちはそれと気づかず心も体も月に操られている / 志賀勝著 / はまの出版 , 1997.11 p66-73「月とセックス・生殖」他

 「月」「精子」「汐の満ち引き」のgoogle検索だけではこれだけのリストまで絞り込めない。膨大な一覧表になってしまうか、欲しい情報までたどり着けないかのいずれかだろう。

質 問:渡辺淳一の作品を探している。あらすじは、中学生の女子生徒が主人公で、発育が遅れており自分が実は男の子ではないかと疑っている。また主人公は陸上部の選手で、その顧問である男性教諭とのことを描いた小説である。

回 答:「セックス・チェック」が質問要旨のあらすじと一致するので提供する。『十五歳の失踪』(講談社 1972)

 あらすじだけで中身を当ててしまう。回答者は本書を読んだことがなく、一冊一冊あたってみたらしい。いっぽう、↓のようなマニアックなやつもOK

質 問: 「SMガールズ セイバーマリオネットR」作者はあかほりさとるらしい。この本が小説かどうか、また書誌事項が知りたい。

回 答: 『J-BISC』で検索、「セイバーマリオネットJ」(あかほりさとる 富士見ファンタジー文庫 1995)で、内容は小説。

 「googleれよ!」と思わずツッコミたくなるが、中の人は冷静沈着に調べ→答えてくれる。さらに、回答よりも、「回答までのプロセス」が秀逸なのがコレ↓

質 問:三浦綾子と似た作風の作家がいたら紹介してほしい。

回 答: 『国文学解釈と鑑賞-戦後作家の履歴-』の〈三浦綾子〉の項に「三浦の作品はキリスト教的精神にのっとり夫婦愛を追求していることで、菊池幽芳・中村春雨の流れにつながるものといえる」と記述あり。菊池、中村の作品で所蔵資料を紹介する。 『現代女性文学辞典』『新潮日本文学辞典』と前記『国文学解釈と鑑賞』の三浦綾子の項と菊池幽芳の項をあわせて紹介する。

 単に疑問に答えてくれるだけでなく、どのように調べたかを示してくれるので、「三浦綾子」が「曽野綾子」になっても、今度は自分で調べられる。

 ―― とまぁ、こんな感じ。他は、[ここ]をどうぞ。「はてな」と違って全て公開されているわけではないが、「はてな」と同様、興味深い問答ばかりで飽きない。google がまだ弱点とする、書籍の横断的な調査は、図書館のレファレンスサービスを利用すべし。google library project [参照]は、このサービスを目指しているのかもしれない。

 お題の「図書館に訊け」は同名の新書がある。チクと読んでみますかな。もちろん、図書館から借りてねッ。

 税金は、しっかり使おう、忘れずに

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「恐怖の兜」

恐怖の兜 たいていの本は読み始めて数頁たつと、面白さが肌感覚で分かる。だがこいつは違った。読み始めると頭ン中で警報が鳴りだした→こいつはとんでもないぞ、と。でもって、ちょっと変わった構成のお話にのめりこみ→「なんだこれは!」とガクゼンとするラストに犯られた。

 amazonレビューがソソる。

 「ここは、どこなんだ!?」そこは小さな部屋、あるのはベッドとパソコンだけ。仲間探しのチャットが始まる。呼びかけに応じたのは、男女八人――どうやら皆が迷い込んだのは、「恐怖の兜」をかぶった巨人の世界らしい。その正体は、牛の頭をもつ怪物ミノタウロス。この奇妙世界はミノタウロスの迷宮なのだ。そして彼らは救出の時を待つ。ミノタウロスを退治した、英雄テセウスを。しかしその脱出には驚愕の結末が…

 ミノタウロス神話をベースにしていることはすぐ分かるが、迷宮脱出のためのアリアドネの糸(スレッド)とチャットのスレッドがかけてあるのにのけぞる。全編チャットの会話で構成されている、いわゆる「電車男」のスタイルなので、おなじみの方には入りやすいだろうが、慣れないと誰がどんなキャラなのか混乱するに違いない。

 いっぽう、掲示板やチャットルームに入り浸ったことがあるなら、すぐに『あの』独特の雰囲気が再現されていることにニヤリとするだろう。これはロシアも日本も大差なし。

 例えば、空気を読まない奴、何かとまとめたがる奴、二人だけの世界にイっちゃう奴、下ネタやバカ話でまぜっかえす奴、トリビアの応酬 ――そう、あのダラダラした雰囲気で、日本のエロアニメにおける触手の本質や、モニカ・ルインスキーとモナ・リザの共通項について語られる。そして、恐ろしく重要なことは気づかれないまま会話の端に紛れ込むのだ

 「このチャットの"場"に、なにかの目的がある」ことや、「GMがチャットを検閲している(個人を特定できるような発言は伏字XXXになる)」こと、そして何よりも自分以外の参加者を疑っていること(こいつはホンモノなのだろうか? それともフリ?)―― などから、2ちゃんのスレよりも人狼BBSの方が近いかも。

 しかしラスト、「CUBE」(ヴィンチェンゾ・ナタリ監督)や「SEVEN ROOMS」(乙一著)をなんとなく想像してたのが木っ端微塵に砕け散るるる。おおうこうなるとはッ、ある意味、物語の「王道」なのだが、空虚に向かって射出されたような気分、あるいは語り部に連れてこられた先が迷宮の真ん中だった、そんな読後感。

 そんでもって、ずっとROM(Read Only Member)ってた読み手は強制的に次の自問に至る仕掛けだ→「チャットの奴らはこれでいいとして、それを読んでるわたしは誰なんだ」ってね←これも物語の王道オチだな。

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ホンモノのエンジニアを見ろ!

我らクレイジー☆エンジニア主義 読むと咆哮したくなる「我らクレイジー☆エンジニア主義」、(ogijunの)あとで書く日記にて「すごい。読むと泣く。すぐ買え」[参照]とのことなので、読む… … →うっひょー!読むとアドレナリンが出てくるスゴ本だぁッ、ちうわけで痛勤電車内でエンジン全開になり咆哮したくて身もだえ→激しく挙動不審だな(笑

 同時に「ニッポンのエンジニア」について、いかに狭い認識しか抱いていなかったかを思い知る。さらに、技術ではなく、人がスゴいんだ、という単純な結論に至る。スゴい技術はスゴい人から生みだされる。日経で賑々しく紹介される最新技術ではなく、そいつを生み出す技術者自身に焦点を当てたTech総研の企画勝ちだね。

 会社が求める結果を淡々と「製造」しているわたしにとって、好きなことだけに人生を捧げている連中の言葉は、ズギュンと刺さってくる。例えばこうだ――

* * *

大平貴之
プラネタリウムクリエイター
恒星数500万個のプラネタリウムを一人で作った

不可能は証明できない : 「不可能は存在するかもしれませんが、不可能だという前提で議論をするのは、いかがかと思う。宇宙全体の物理法則が理解できているわけでもないので、物事が不可能と証明できるほど人間は賢くない。おごってはいけない」

小濱泰昭
東北大学大学院教授
時速500kmの未来列車エアロトレインを開発

 ヒマな時間がないと、独創的なアイディアは出てこない : 「このNPO法人には、もうひとつの目的があります。それは、第一線で働くエンジニアに、ヒマな時間をつくってあげたいんです。なぜか。走っているだけじゃダメなんです。どこかで立ち止まって、やることがない、これはイカンぞ、というくらいの状況に置かれないと。慌ただしい毎日から抜け出してみる。それも、いい仕事をするためのヒント」

山海嘉之
筑波大学大学院システム情報工学研究科教授
サイバーダイン設立者
ロボットスーツ「HAL」開発者

 つねに知識を捨てながら、新しい知識を得たり、創り出したりして生きていく : 「そもそも高等教育において必要なのは、学ぶ力だけだと思っています。『学ぶ力』さえあれば、やりたい分野について勝手に自分で知識をつけたり、開拓したりする。大事なのは学ぶ力なのであって、○○学科出身とか、専門は何? ということではないんです。だいたい新しい分野を開拓しようとするのに、専門という意味は特にないでしょう」

清水浩
慶應義塾大学環境情報学部教授
世界最速の電気自動車「Eliica」を作った

 車の形をしている時点で、まだ不出来なんですよ : 「エンジンというのはとても偉大なもので、その偉大なエンジンを中心におかなければならないという意識から抜け出せない。この発想では不出来なんです。「Eliica」もまだ車の形をしている。これではおかしいと私は思っています。実は自動車は最初の頃は馬車の形をしていました。あらゆる工業製品は、もとの形に左右されます。自動車はやがてエンジンを載せるために都合のいい形が追求され、今の形になっていった。これから考えるべきは、人間が乗るために都合のいい形になっていくことです。もっともっといい形は、必ずあるんです」

高橋智隆
ロボットクリエイター
設計図なし!ロボット「クロイノ」製作者

 設計図はありません : 「設計図というのは、複数の人間でやっていたり、工場でつくってもらったりするためにあるんです。ひとりでやっているぶんには必要ない。そもそも設計図を書こうと思ったら、つま先から頭のてっぺんまで、全部設計しちゃわないといけない。イメージスケッチしかないのに、そんなのできるわけないじゃないですか。(中略)行き当たりばったりで最適なものを考えていったほうが、結果的にいいモノになると思ってますから」

 … うがーッ紹介しきれない!というよりも、レジュメなら[ここ]読んだ方が早いし、まとめのつもりでこのエントリ起こしているわけではないので、紹介はこのへんにしておく。

* * *

 読む前のわたしの認識と違ってて楽しかったのが、アニメの影響。「光学迷彩」で透明人間を実現した稲見昌彦氏が紹介したのが、(やっぱりというかナンというか)「攻殻機動隊」だし、ポストペットで名を馳せた八谷和彦氏は「メーヴェ」(←わかるね? ナウシカが乗ってるやつ)を作ってしまう。

 アニメの文化が認識の日本人の『認識の底上げ』をやっていることが実感できる。メーヴェであれタチコマであれ、アニメが描く世界がどれぐらい荒唐無稽ではないのか、見る人が試されてきているんじゃぁないかと。

 つまり、ちょっとだけ未来のテクノロジーの可能性を取り込んだアニメを観て、もともとの素養ができているわけ。昔のSF小説を今のアニメが肩代わりしており、どんなに突拍子のない発想も「ありかも?」と考えられるんじゃぁないかと。

 もうひとつ、わたしの予想を裏切ってくれたのが、「技術者とカネ」。ひと昔前までは、「技術バカ」=「技術のことに頭でっかちでビジネスにつなげられない→カネにならずに消えていく or せっかくの技術を盗られる世間知らずの半ひきこもり」と思っていた。

 しかし、ここに登場するクレイジー☆エンジニアたちは全く違う。発想を実装するためには、何よりもカネが必要であり、それは信用に裏打ちされてついてくるものであり、大人数を要するプロジェクトならマネジメントが不可欠であることを分かっている。その上で行動している。思うように資金が集まらない場合は雌伏して待つ、あるいは別のアイディアを目玉にして食いつなぐ。要するにしたたかで執念深くなったんだ。

* * *

 ラッシュの電車でイッキに読む。弾かれたように飛び出す。事物が急によく見えてくる、アドレナリンが垂れてくる、エスカレーター無視して階段を2段飛ばしで駆け上がる、やるぞ、おれはやりたいことをやるんだぁッ、と(心の中で)叫びながら全身で朝日に向かう。最初はロッキー・バルボアのポーズで、そして夢原のぞみの決めセリフで。

 夢見る漢の底力、受けてみなさい! クレイジードリームアターック!

 業界遊泳術はあれど、輝く金の花なんて無いわたしに、わけもわからずやったろうじゃんという気にさせてくれる。それだけじゃなく、会社を飛び出したくなるぐらいアツい気持ちにさせてくれる、ちと毒な一冊。

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