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学校がつらいなら「氷の海のガレオン/オルタ」

氷の海のガレオン/オルタ 親になったら読むべき4冊目、あるいは、生きにくさを感じている生徒・児童におすすめ。

 わたしの行ってた学校は、本当に空気が薄かった。

 居所がないというより、そもそもコトバが通じない。「私は日本語をしゃべれているのか?」と真剣に考えた。「問題児」というレッテルのおかげで学校からは放っておかれた。いじめには暴力で決着をつけた。それでも、図書室や剣道といった「逃げ場」のおかげで息つぎができた。

 大人になるために、子どもを生きのびなければならない

 うまく生きのびたものだと思う。死ぬこともなく、壊れもせず、子どもを終わらせることができた。ほとんど運みたいなものだ。だから、いま、生きにくさを感じている子どもには、何のアドバイスもできない、何の役にも立たない。

 ところが、いい本を教えてもらった。「氷の海のガレオン」(木地雅映子)だ。どういう内容かというより、どういう子どもなのかは、次を読めばわかる。

「なんで? 友達じゃないの?」
「むこうはそう思いたがってるけどね」あのトイレでの会話――会話以下のものだけど――を思い出しながらわたしは言った。「友達って言葉の定義が違うのよ、ママだって言ってたじゃない、本当の友達なんて、家族を別にすれば同性にひとり、異性にひとりいれば御の字だって。あの子はぜんぜんその器じゃないよ。だけどあっちは孤独がこわくてしがみつきあってる関係でも"友達"だと思ってる。あたしにそれをやってくれってんだから、参るわよ」

 こんなところに俺ガイル、と同時に呼吸が苦しくなる。ぜんぶ「過ぎ去った」として見ることができる今になって、どうすればよかったか、が分かる。

 ただし、この「どうすれば」は、わたし限定。この短編小説には、何の解決も書いていない。何かを求めてページを開くなら、ラストにいたっても何も得られないことに気づく。それでも、同じ気持ちを(もういちど)通り抜けることは、できる。うまく言葉にできなかった口惜しい思いを、今の自分で追体験できる(ここがスゴい)。

 続いて「オルタ」。これは、親こそ読むべきですな。どうしてこれがヤングアダルトなのか分からん。「星の王子さま」は大人こそ読むべきであるように、「オルタ」は親が読んでおくべき。

ここにいたら、あぶない。

ここにいたら、じぶんをとられる。

そんな警報があたまの中で鳴り響いているのに、それ以上、どうすることもできない。

 あー、でも、これも「解決策」は書いていない。小学校一年生の「オルタ」の母親が語りべとなって、つむぎだされる苦しい話。この短編の本質は、次に凝縮されている。

「貴大くんはね、ほんとうはやさしい子なんだよって、先生ゆってた……」
会話としては何の脈絡もないところで、突然ぽつんと、オルタが呟いたことがありました。
学校はこどものだいじなところ。先生は熱心ないい先生。そして貴大くんも、ほんとうはやさしい、いいこども……
それじゃまるで、オルタの胸のなかにある、この苦しみだけが、よぶんなものだということになってしまう。

だから、たぶん、行かせれば、オルタは行ったでしょう。
そして次第に、先生に告げ口もしなくなり、わたしにもなにも言わなくなり、「ほんとうはいい子」な貴大くんからの仕打ちにもできるだけ耐えて、一番いいことは、もう自分がこれ以上、なにも言わないことだと。みんないい人なんだから、後はわたしががまんするだけなんだと。それがクラスのみんなのためなんだと、自分に言い聞かせながら、きっと最後まで、先生みたいな人たちの期待どおりに、がんばりぬいただろうと思います。
最後まで……
つまり、
壊れるまで。

 壊れてしまった話なら、「わたしのいもうと」、そして「ぼくはお城の王様だ」が浮かぶ。最悪の最後ならずとも、幼い子どもが善意の地獄の中で身動き取れなくなるさまが非常にリアル。親ならきっと、「あるある」と頷くこと請合う。

 オススメいただいた金さん、ありがとうございます。わたしが知らないスゴ本は、金さんが読んでいたのですね。それから、この「言葉にできないもどかしさ・くやしさ」は、ぜひ、柊ちほさんに読んでもらって…と思っていたら、読了済み(流石)。

 ちなみに、親になったら読むべき残りの3冊は[ここ]をどうぞ。

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コメント

文庫で買って読んで、あんまり良かったので絶版になっている講談社の単行本版も図書館で探して読んでしまいました、『氷の海のガレオン』。

『オルタ』は、学校に行かなくてもいいんだよ、というのを解決策のひとつとして示しているのかなあ、と思いました。

投稿: 柊ちほ | 2007.11.19 14:55

やっぱり柊さんのアンテナにキャッチされていたのですね、さすがです。

「学校に行かなくてもいい」は、解決策というよりも、選択肢ですね。そして、選んだことによる「追い込まれ」があります。オルタの母はそこに心を痛めており、解決にはなっていないことも自答していたような… (たまたま"そういう人"と小学校で出会っただけで、中学、高校、社会に出たら、いずれ折り合いをつける必要がある――云々)。

時間を措いて書いたという設定で、かなり抑制した筆致ですが、母の苦悩が見えます。

わたしの心配とシンクロします。


投稿: Dain | 2007.11.20 00:02

ご無沙汰してます。
私も、柊ちほさんと同じく、単行本も、図書館で借りて読みました。作品(小説?)の力としては、文庫収録の2作が圧倒的でしたが、他の作品にはオルタに到る前の、ガレオンの延長(救い?を求める気持ち)があるような気がします。

投稿: 金さん | 2007.11.22 11:54

>> 金さん さん

オススメありがとうございます!
おかげでスゴい本に出合えました

「ガレオン」はヒトゴトじゃないです… 彼女の感じた「わけの分からなさ」に的確な言葉を与える「母」は、同じような辛い思いをしてきたんじゃぁないかと…

「ガレオン」の延長も平坦ではないでしょう… 当人も親も。
今では、「選べる」時代になったから進歩したのかもしれません。


投稿: Dain | 2007.11.23 23:07

 ああ……たしかに、解決策より「選択肢」の方がしっくり来ますね。

 わたしは、程度としてはオルタほどひどくはなかったけれど、近い体験ならしたことがあるのです(小学校低学年の頃、隣の席の男の子が、授業中も構わずいやがらせをしてくる子だった……という)。

 先月出た木地雅映子さんの新作『悦楽の園』もすんごいですよ~。ページをめくるたびに琴線に触れる言葉に出逢ってしまうので、読める嬉しさにくらくらしました。

投稿: 柊ちほ | 2007.11.23 23:59

>> 柊ちほ さん

結局「オルタ」は逃げのびることができなかっただろうなー、と(今になって)思います。

ただ、後になればなるほど壊れにくくなるのが人の心なので、「脱出」選択肢は正解なのかも。

「悦楽の園」は読みます、教えていただいてありがとうございます(ちほさんのコメントは、磁力がありますね。川上弘美の書評本みたいです)。

投稿: Dain | 2007.11.24 00:31

柊ちほ さん、「悦楽の園」の感想、ありがとうございます。読みます。タイトルがこれで、表紙がボッシュなので、期待しつつも、何だか怖くて買わずに帰ってきてしまいましたが、さっき、amazonでポチッとしてしまいました。

投稿: 金さん | 2007.12.04 00:33

「悦楽の園」借りてきましたー

ところが、

同時に借り出したのが、ケルアック「オン・ザ・ロード」とマルケス「コレラ時代の愛」ときたからには!

 キタ──────(゜∀゜)──────!
 キタ──────(゜∀゜)──────!
 キタ──────(゜∀゜)──────!

しばらくちゃんと眠れない夜になりそう…

投稿: Dain | 2007.12.05 00:00

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