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べたな感動を期待なさる方に不向き「バーチウッド」

バーチウッド 語り手に、「連れて行かれる」感覚がいい。たとえ、連れて行かれた先が、最初の場所だったとしても。

優雅な屋敷だったバーチウッドは、諍いを愛すゴドキン一族のせいで、狂気の館に様変わりした。一族の生き残りガブリエルは、今や荒廃した屋敷で一人、記憶の断片の中を彷徨う。冷酷な父、正気でない母、爆発した祖母との生活。そして、サーカス団と共に各地を巡り、生き別れた双子の妹を探した自らの旅路のことを。やがて彼の追想は一族の秘密に辿りつくが……

 面白いのは、語り手も全て分かっているわけではないらしく、最後まで主観ビジョンで話が進む。歯がゆい思いで想像力で埋めていくと―― 隠された秘密を見抜く。これも計算ずくならスゴいとしか言いようがないが、んなわけないか。

 小説技法。伏線をちりばめたり、ストーリーを折りたたんだり内包させたり、描写でイベントを予感させたり… 盛りだくさんなんだが、あざとさが目立つ。訳者の佐藤亜紀氏が誉めているけど、まさに彼女が書きそうな小説だからか。ちなみに、彼女が書いた「ミノタウロス」は素晴らしかった。レビューは[ここ]

 翻訳は素晴らしい(と思う)。原文は読んではいないものの、訳文がユニーク。体言止めならず、体言区切りが妙に斬新。つまり、句読点で区切られる直前が体言となっているため、読むリズムがボキボキ狂う。狙ってやっているのか。

 「べたな感動を期待なさる方にこの本は不向き」と佐藤氏は言う。まさにその通りなんだが、ひねくれた物言いで生きにくくなってはいやしないかと余計なコト考える。日経新聞書評だとこうある。

旅の果てに明らかにされるゴドキン家のおぞましい過去に戦慄(せんりつ)を覚えながらも読者は暗い宿命から逃れられない人間の悲しみに心を強く揺さぶられることだろう

 んー、わざわざこの小説を読もうとする人ならすぐ見破ると思うぞ。特に、正統なる小説を重んずる人が目の敵にしている「ライトノベル」に慣れた方だと。小説が成立するために、語り手だけでなく、成熟した読み手も要する。が、解説まで必要とするならば、その小説を殺すことになる。

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コメント

ミノタウロスの金です。諸般の事情でこの本は未読です。
佐藤氏の作で手頃なのは、文庫になったラノベ(でいいのかな)の『雲雀』と『天使』でしょうか。
文学論講座は体力使い過ぎて辛かったので、この本は敬遠するかも。

投稿: 金さん | 2007.09.12 10:30

>> 金さん さん

佐藤亜紀という名前はロックオン済なので、「雲雀」と「天使」はそのうち読みます。

(先日気づいたのですが)だんなさんである佐藤哲也著「ぬかるんでから」は既読だったりします。実に不思議な「妻」が出てくるのですが、亜紀さんのメタモルフォーゼでしょう(あえてメタファー、とは言わない)。

めおと小説として、交互に読んでいくと面白いでしょう。

投稿: Dain | 2007.09.12 21:49

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