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田村隆一の、人生相談は、若いうちに

ぼくの人生案内 詩人の、人生相談。あるいは、翻訳家としておなじみの言葉の達人が、20代の悩みへ真摯に応える。まっすぐな視線にたじろぐかもしれないが、いい具合にユーモアが効いてるので、胸まで届く。

 たとえば、こう。

【問】 18歳の童貞です。女性を前にすると、必要以上に緊張してしまうんです。女の人に対してもっと自然に振舞える良い方法はないものでしょうか。

【答】 その緊張を持続させることのほうが、これからはたいへんさ。

 この一行に凝縮されている、「女ナル存在」に向き合うための心得って奴が。女性に礼儀正しく接する、女性を尊敬する、いつまでも女性を好きでいつづけるための心構えがある。これは、分かってしまえばなァんだ、と腑に落ちるアタリマエのことなんだけど、それを知らずにこのトシになってしまったのが、わたし。

 わたしこそ、18の春に知りたかった。

 さりながら、女性へのまなざしは、時に厳しい。

女性が品のあるかわいいお婆ちゃんになるのは、芸術に近いことだ。だいたいは意地悪婆さんとか強欲ババアになってしまう。でも男性は、それまでに仕事や何かで精魂尽き果てているから、いい爺さんになれる。枯れた老人にね。悪ジジイになるのはそうとうタフな奴だよ。政治家ぐらいじゃないかな。

 ああ~わかる。「そのとおり」と言いたいのではなく、ジイさんの偏見かも。最近じゃ例外をかなり見かけるし。その偏見込みでジイさんの言いたいことが分かる。男もオンナも、いい感じに老いることが難しくなっているのかね。「アンチ・エイジング」なんて狩り言葉がマスメディアに溢れているし。

 あまりにも正攻法すぎて、誰も教えてくれないほど「あたりまえ」のやり方。恋に真剣に悩んだ人で、かつ、成功も失敗もした人でないとできない回答。

【問】 通勤電車で会う女のコに、恋をしてしまいました。

【答】 正々堂々と、でも相手が断れる余裕をもたせて誘うのがマナーだよ。


真っ正面から、正々堂々といきなさい。会社員なら名刺を持っているだろう。名刺を出して、「前から気になっていたんです。一度、お茶でも一緒に飲みませんか」って言うんだよ。電車の中で言うのが恥ずかしかったら、彼女が降りる駅まで行って、ホームで言うのさ。朝の忙しい時間なんだから、用件だけで手短に終わらせるんだよ。返事は電話でもいいんだ。
彼女のことを少しでも知りたいからと、あとをつけるなんていうのは野暮というもの。男がすたるよ。まず自分から名を名乗り、身分を明かすのが社会人としてのマナーだ。
いきなり「好きなんです」とか、「おつきあいしてください」なんてのもダメだね。そんなことをしたら彼女が身構えちゃうよ。女性を誘うときは、相手が断ったり返事を保留できる余裕を持たせておく。これが男としてのマナーだ。
その代わり、アタックして断られたら、すっぱりあきらめること。

 こいつを「そんなん分かってるよ!」なんて切り返せるだろうか? ストレート真剣勝負をやってもみないで、いきなり変化球やら魔球を投げようとしてはいないか?

── と、18のわたしに言いたい。

 氏の翻訳にはお世話になった方も多いかと。ならではの回答もある。

   【問】 苦手な英語を好きになる方法を、教えてください。
   【答】 辞書をひかないで、英語のポルノを読んでごらん。

   【問】 翻訳家になるには、どうすればよいですか。
   【答】 まず、日本語をもう一度勉強し直すことだね。

   【問】 小さい頃から口ベタで、このまま社会に出るのが不安です。
   【答】 話していることなんて、ほとんどはデタラメなんだ。

 最後のやつなんて、わたし自身が「口下手だからどうしよう」と悩んでいた時期を思い出した。あのころ、確かに真剣に悩んでいたのだ。悩んで学んで、今じゃ突き抜けてしまっている(あきらめている、ともいう)。各章のラストに田村氏の詩が並んでいる。いかにも若者向けのメッセージの詩ばかりだ。氏の詩は難解だと思っていたが、こんな詩も書いていたのか…

 このテの人生相談は、開高健の連載にお世話になった。「田村隆一 ぼくの人生案内」が良かったならば、開高健「風に訊け」もオススメ。ウィットを効かせすぎたきらいもあるが、男女の微妙な妙(たえ)にハラ抱えて笑える一方で、生きることと死ぬことを急速に考えさせられる一冊でもある。

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コメント

こんにちは。毎日楽しく拝読させていただいております。
「電車で会う女の子」のくだりは、詩集「水半球」に納められた「木」という詩を読んだときの印象が、そのままに感じられます。力まず、でも正面から。早速こちらの本を、本屋に探しに行きたいと思います。
同じ詩人の回答つながりで、谷川俊太郎氏の「谷川俊太郎質問箱」もお薦めです。6歳の女の子からの「死ぬのはいやだよ」への回答などなど、鋭く暖かい言葉が綴られています。

投稿: zemukuripu | 2007.09.19 13:21

>> zemukuripu さん

「力まず、でも正面から」という姿勢はマネたいです。若い頃、これを諄諄と諭してくれる人がいたら… いや、いてもわたしはこのままだったかもしれません。

「谷川俊太郎質問箱」は、ぜひ読みたいです。教えていただき、ありがとうございます。

投稿: Dain | 2007.09.19 22:16

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» [読書] ものすごく読みたくなった。 [黒い綿棒のメモ]
ぼくの人生案内 (知恵の森文庫) 作者: 田村隆一 出版社/メーカー: 光文社 発売日: 2006/12/05 メディア: 文庫 わたしが知らないスゴ本は、きっとあなたが読んでいる で紹介されていて、ものすごく読みたくなった。 さっそく書店で探してみようと思います。 ... [続きを読む]

受信: 2007.09.23 00:23

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