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「外注される戦争」から除外されているもの

外注される戦争 表紙はおどろおどろしいが、いわゆるタテマエの面からこの市場をレポートしている。P.シンガー著の「戦争請負会社」に比べると、歯にモノが挟まったような言い方だなぁ、なんでだろーなんでだろーと読みつづけ、ラストの「あとがき」で腑に落ちる。

2005年半ばに英国PMC大手アーマー・グループを訪れて取材をしたのだが、日本法人の設立を検討中だった同社から後に連絡を受け、なんと2006年夏に同社の日本法人にコンサルタントとして加わることになったのである。研究者としては決して見ることのできなかったPMCの生の活動に接するまたとないチャンスである。これからは、テロ戦争ビジネスの最前線を、「インサイダー」としてフォローしていくことになる。

 なんてことはない、中の人になってしまったんだね。魂を譲り渡したことに気づかず、むしろ「チャンス」だと小躍りしている様子がこっけいだ。

 それでも、戦争請負会社の最新のオモテ面を知るにはうってつけの一冊。本書ではPMC:private military companies と呼び、民間軍事会社と訳している。たとえば報酬の比較方法が面白い。

ダイン・コープ社の警察顧問の場合、


  • 年間12万ドル(1400万円)
  • 欧米の特殊部隊出身者は一日1000~1500ドル(12~18万円)
  • ハート・セキュリティ社の斎藤氏の場合は、一日600ドル(72,000円)

 これを、アメリカの平均的な警察官の給料「年間3~4万ドル(360~480万円)」と比較している。「安全を提供するビジネス」を標榜しているわりには、この給与格差は何なんだろう? というツッコミが『無い』ところがポイントやね

 もちろん、保証や後ろ盾がない点や、雇用・契約が不安定なところも触れはするが、そこから容易にたどりつける結論「要するにフォースのダークサイド」を書いていない。

 国の本音はこうだろう。「何万人もの人間を、軍人として長期間雇っておくよりも、数ヶ月スパンで『民間戦争請負会社』を使った方が、経済的」、「軍需に依存した産業構造により、一定の期間で戦争を起こす必要が出てくる(兵器のリニューアル&リフレッシュ)。軍事サービスのアウトソースは、その弊害をダウンサイジングできる」。

 いっぽう、「セキュリティ・サービス」を提供する側は、それこそ星の数だけ理由がある。リタイアした人材の再活用、一攫千金が現実的なマーケット、戦争フリーターの自己実現の場 … そいう本音ベースの話はきれいに除かれている。たとえば、

武装勢力は斎藤昭彦を殺害した後、ハート社に対して斎藤さんの遺体を売りたいと連絡してきたという。その価格は8万ドル(約960万円)。最近のイラクのテロリストは、人質をとるなんて面倒なことはしない。殺した後に死体を売るビジネスを始めた。殺されたほうの家族は死体がないと生命保険を受け取れないだろう。だから、高額を支払っても死体を買い戻すはずだとやつらは踏んでいる。汚い連中だ。

 「武装勢力」をメディアでしか知らないわたしですら知っている。「武装勢力」なる人は、時と場合により、「セキュリティ・サービスを提供するビジネスマン」に変身することを。

 オモテ面の最新情報は、「外注される戦争」で網羅されている(ように見える)。ウェブサイト、BBCなどのドキュメンタリー、インタビュー、メール、新聞、書籍(もちろん「戦争請負会社」も出てくる)… 巻末のネタ元を見ただけでも、かなりのものだ。

戦争請負会社 いっぽう、ダークサイドや歴史も含めたものなら、P.シンガー著の「戦争請負会社」を推す。「外注される戦争」が「セキュリティ・ビジネス」という切り口で語っているのに対し、「戦争請負会社」は、兵站から戦闘行為までの「サービス」を徹底的に紹介している→「戦争請負会社」読書感想文

 さらに、PR戦も含めた請負会社を考えるなら、これも→[デカレンジャーと「戦争広告代理店」]


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コメント

菅原 出氏のインタビューが
“「外注される戦争」 米国は次にどう動く”
と題して日経ページに掲載されています。
http://business.nikkeibp.co.jp/article/topics/20070509/124398/?P=1

既に御存知かとも思いましたが念のため

投稿: power_of_math | 2007.05.10 09:05

>> power_of_math さん

おお、知りませんでした、情報ありがとうございます。
このインタビュー、本書のレジュメのようなものですね。
これからは「戦争請負会社のスポークスマン」として活躍するでしょう…

投稿: Dain | 2007.05.10 23:17

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受信: 2007.05.22 02:32

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