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ラブシーンの言葉

ラブシーンの言葉 ため息が出る性愛譚集。小説、詩歌、エッセイ、雑誌の連載からエロチックな描写をこれでもかとばかり集めている。男女の愛の営みをおおらかなまなざしで(ナマあたたかい目で?)評しており、この寸評が面白い… てか笑うと同時に思わずふりかえる。

 なんと全部で208編の底本から採っている(読みながら数えた。煩悩+100!)。79歳のおばあちゃんから、17の牧歌少女まで、生々しい体位もシチュもキャラクターも、燃えも萌えも恥じらいも狂騒も、なんでもござれのエクストラヴァガンツァっ!著者の荒川洋治氏には、「エロス☆ウォッチャー」の称号を謹呈。

 著者自身の経験に裏打ちされた(?)コメントがオモロい。例えば、開脚した「花」をポラロイドで撮影するさまを謳った詩を、こう評する。

花が「女性」である場合、こういう写真を撮らせてくれる若い女性はいない。が、若くないと、撮る人がいなくなるものである。

 なお、この手の写真は、しろうとが写すと、かんじんのパートがぼけてしまう。ピントを合わせるのがむずかしい。特にうつらなくもよい、アゴとか、アンヨとかが、えらくリアルにうつっていて、がっかりしたりする。

 「撮ったんかい!」と、お約束でツッコミ入れる。

 あるいは、読んでておおおっとヒザ打つことしばしば。例えば、まじわったあとの女性の「日常性の回復」の段取りとして、花村萬月の「ゲルマニウムの夜」を挙げている。

やがて、女が目覚め、身悶えするように離れ、はずし、僕の健在ぶりに媚びの詰まった眼差しをむけ、驚いたことに躯を斜めにして僕の腰を抱き、口唇を用いて僕の触角を清め、暗がりに躯をねじこむようにして意図的に隠蔽してなにやら自らの局部の後始末をし、手早く下着を身につけ、乱れたブラウスの裾をタイトスカートのなかにあせった手つきで挿しいれ、秘密めいた眼差しをむけてきた(「ゲルマニウムの夜」花村萬月)

 ポイントは後始末するオンナの、目にもとまらぬはやわざ。描写の文字数と句読点が…などと語りだすと無粋だが、本書はそんな解説をせず、さらりと交わす―― しかしわたしは次へイかせず、「おお、そういや萬月では『触角』っていうんだよなー」とか「横笛で吹いた拭いたんだな(←妄想)」とか、モヤモヤと思い出し、再読したくなる仕掛けにハマる。

 さらに、やっぱり見たいものは見たいモノで、クリトリスのクリアな実物写真がp.59に載っているという講談社ブルーバックス「男が知りたい女のからだ」もマナ板に乗ってくる。女医・河野さんの説明にイチイチ返答する荒川氏がカワイイ。

さて、「いちばん女性が喜ぶにはどうすればいいのか、それを知りたい男性は多いでしょう」。はい。「でも女性の反応もさまざま、非常に個人差がありますから、こうしたらいい、ああしたらいいと適切なアドバイスは困難です。ゆっくりパートナーの反応を見ながら研究してみてください」。

こういうことになると、どの本も「個人差がありますから」と、包皮につつむものらしい。

 もちろん笑いもある。艶笑というか、エロにはおかしみがつきものだもの。村上春樹の「ちりんちりん」の話はのたうちまわって笑わせてもらった。若いカポーがハイキング、なんせ北海道なので熊よけの鈴をちりんちりんとさせて山の中へ。ところが彼が、急にあれをしたいと言い出したのでさあたいへん。あれがしたいわ、熊が怖いわで、交代でちりんちりんとさせる件が激しく面白い。紹介が上手いので、つい手を出したくなってくる。

 あと、プルーストもでてくるけれど、ブンガクブンガクしてないよ。鬼六やウノコウはきっちりとおさえてマス。ただし、妙に爽やかな部分を解説しているので、ついホントはもっとドロドロンなのに… と言いたくなる。

 いわゆる暗黙知も得られるのも、イイ。女のパンティをスムーズに脱がせる方法は、「お尻のほうから、剥くように」とか、あるいはフェラチオでイかせる際のTips「射精のあいだ、亀頭を刺激することも絶対にやめるべき」「たしかに射精のおり、食いつかれると、痛い。適当に離れて、事態を見守ってほしいもの」など、オトコでもオンナでも役に立つかも? まぁ、知ってる人にはドってことないんだけど、ね。

 こまかい描写・(時には)スルドイ寸評を次々と見ていくうちに、自分の場合そんなトコまで覚えちゃいねぇことに気づく。意外なことに、このトシになっても無我夢中で見てない。視聴覚よりもむしろ、味覚・嗅覚・触覚のほうが鮮明だったりする── まだまだなのかね。

 それとも、性愛とはそういうものなのか。

女性を裸にしたあと、性行為に移るまでは一瞬のできごとと思えるし、実際にそうなのだが、女性器に対する男性の観察時間はこのように長い。「ねえ…早く…」といわれるまで、かなり時間をかけて、男は局部の観察にいそしむ。どうしてこのような「描写」が必要なのか、それは女性にとって少しわかりづらいかもしれない。好きな女性の体にありついたとき、男はヴァギナに停泊する。ヴァギナとその周辺を何度も何度もさわったり、なめたり、ひろげたり、つまんだりして観察する。それは喜びと興奮のあまり、接触の瞬間から、女性器の記憶がうすれはじめるからだ。

だがそれは制御できない興奮のさなかのことなので、ほんのしばらくで忘れてしまうものである。しばらくすると色も形状も発毛のぐあいも、そのときの彼女の顔も、デテールの一切は記憶からぬけてしまう。あんなに時間をかけて見たつもりなのに、思い出せない。夢みたいに消える。

 一期は夢よ、狂うべし。

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