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劇薬小説「血と骨」

 スゴいというより、凄まじい小説を読んだ。

 米光さん、オススメありがとうございます、1000ページをイッキ読み、「わたしが知らないスゴ本は、米光さんが読んでいた」というやつですな(米光さんのレビューは[ここ])。blogやってなかったら、一生知らなかった(知らずにすんだ、ともいう)劇薬小説にめぐりあえてホント、良かった。

 ただし、読む人はご注意を。エンターテイメント性は一級かもしれないけれど、暴力と性描写が激しすぎる。没入すると我を忘れてしまう恐れあり。経験の浅い若い人が読むとアてられてしまうかも。例えばセックスの描写はこんなカンジ――

 英姫は急に意識が醒めていく のを感じた。金俊平の荒々しい力がまるで嵐のように英 姫の体を通過しようとしている。英姫は早く終わってほ しいと思った。

 「どうした?」

 と金俊平が英姫の顔を見た。英姫は顔をそむけて返事 をしなかった。英姫の愛液が乾き、あきらかに金俊平の ものを拒絶していた。金俊平はゆっくりと英姫の体から 離れ、つぎに英姫の陰部に唇を這わせた。

 「やめてください」

 と苦痛にも似た声で体をよじる英姫を無視して金俊平 は英姫の全身に舌を這わせるのだった。何度も舌を這わ せているうちに、英姫の全身が金俊平の唾液にまみれ、 どろどろに溶けていくようだった。汚辱と恥辱にまみれ た英姫はしだいに不思議な感覚に痺れていくのである。 いわば汚辱と恥辱と嫌悪の感情が剥ぎ取られ、生身の体 だけを晒しているような恍惚とした状態に陥るのだった。 それは一種の睡魔の状態に似ていた。感覚が麻痺するた びに深い眠りの底へと誘われていくあの抵抗し難い快感 に体をゆだねようとしていた。

 そして再び金俊平のものが英姫の体の芯部に深く侵入 してきたとき、英姫は一気に昇りつめて「あー」と自分 でも信じられない呻き声をあげ、愛液が満潮のように溢 れ出た。激しい快感が全身を電流のように駆けめぐる。 英姫はわれを忘れてめくるめく世界へ逆しまに落ちてい ったかと思うとつぎの瞬間、奥底からせり上がってくる 感情の塊りが英姫の脳天を突き抜けて行った。

 何がどうなっているのかわからなかった。腰がくだけ、 体の痙攣が止まらなかった。放心状態の英姫は、しかし 急に羞恥心を覚えて衣類で裸身をおおい、金俊平に背を 向けた。そして英姫は素早く衣服を着て座り直した。

 ええまぁ、フランス書院も真ッ青なんだけど、こんなんが続く。ねちっこいセックスをヤったことがある人なら、きっとその経験を思い出す。電車で読んでて愚息が元気になりすぎて困った。

 暴力も凄まじい。修羅場の準備で鎖を体に巻きつけて、手にはロープをぐるぐる巻きにする。ドスで突っ込む極道の刃を掌でつかんで受け止める。耳を噛みちぎって食べる。浮気した情婦は逆さ吊りにして刺身包丁で臀部を削いで食べる。焼け火箸を手にして「二度とあれができないように、おまえのあそこを焼いて閉じてやる」――要するに、セックスとバイオレンスの間に、戦中戦後の大阪下町を舞台とした朝鮮の民の物語が挟まっている。

 主人公そのものの存在が化け物としかいいようがない。2メートルの巨漢、眼光鋭く、厚い唇と発達した顎の筋肉を太い首が支えている。五分刈りの頭から額にかけて、鋭い爪あとのような傷が喰い込み、潰れた右耳と顎のあたりの肉がケロイド状に盛り上がっている。扁平は鼻腔が欲情した馬のように大きく膨らんでいる。

 豚の内臓を腐らせたものを健康食だといって食べる。犬百頭の間接を煮込んだ汁を呑む。真っ赤な炭火を素手でつかんで突きつける。読み書きはできないが、恐ろしいほどの記憶力。朝鮮語の殺し文句に「きさまを料理して喰ってやる」というのがあるが、まさにモンスター。肉塊でできた機関車のような存在。猛スピードで暴走し、ぶつかる人間を粉砕する。

 カネとセックスをトコトンまで書き尽くしているにも関わらず、テーマは「家族」。血と骨という言葉は、コリアンにとって特別な意味がある。朝鮮の巫女の歌の中に、「血は母より受け継ぎ、骨は父より受け継ぐ」という一節がある。朝鮮の父親は息子に対し、「おまえはわしの骨(クワン)だ」という。それは、血もまた骨によって創られることを前提にしているからだ。土葬された死者の血肉は腐り果てようとも骨だけは残るという意味がこめられている。血は水よりも濃いというが、骨は血より濃いのだ。

 切迫感をもって読ませる小説として馳星周の「不夜城」を思い出すが、セックスもバイオレンスもこっちが上(ただし、「不夜城」の方がスタイリッシュ&エンターテイメントといえる)。あるいはえげつなさを味わうならば、新堂冬樹の「溝鼠」がタメ張れそう。いずれにせよ劇薬小説であることは確か。

 慣れない人は読まないほうが吉。

血と骨(上)血と骨(下)

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コメント

高校時代図書館にあって、読んだのを思い出しました。とても中毒性の高い小説ですよね。高校時代だと、現実離れしているように感じたため、それほど衝撃を感じなかったように思います。このレビューを読んで、また読んでみようと思いました。ありがとうございます。

&いつも見させていただいてます。
これからも良い本を紹介していってください☆

投稿: jhirono | 2007.03.03 06:23

>> jhirono さん

 ! これを高校生のときに読んだのですか…(衝撃を受けている)。
 ううむ、それはそれで、スゴいですね。わたしは本書と「闇の子供たち」でお腹一杯ですな。

「闇の子供たち」レビュー
http://dain.cocolog-nifty.com/myblog/2007/01/post_9553.html

投稿: Dain | 2007.03.05 00:15

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