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日本のプログラマは、世界一優秀である

問:世界と比較して、日本のプログラマは優秀なの?

ソフトウエア企業の競争戦略 「ソフトウエア企業の競争戦略」によると、答えはYes。著者であるマイケル・A. クスマノはMITの教授。だから信用できるのではなく、長年行ってきたフィールドワークに裏打ちされた主張が、かなりの説得力をもっているから、わたしも答えはYesだと思う。

* * *

日本のプログラマは世界一優秀である根拠

 出典は1990年の論文[※注]なので、かなり古い。「ソフトウエア企業の競争戦略」ではp.281の「パフォーマンスに関する地域差」を参照あれ。

顧客へのシステム導入後12ヶ月で計測した1000行ごとの不具合報告で、日本は最も高いレベルにあった

     日本   0.020
     欧州   0.225
     米国   0.400
     インド   0.263

プログラマ一人が一ヶ月で書けるコードの行数も、日本に優位性あり

     日本   469
     欧州   N/A
     米国   276
     インド   234

 圧倒的じゃないか、わが国のプログラマは!(声:銀河万丈)

 ちなみに、何をもって「世界」というか? 著者のフィールドワークで以下の企業を対象としている。当時の日本、米国、欧州、インドの代表的なソフトウェア企業といっていい。

マイクロソフト、IBM、NEC、富士通、日立、オラクル、SAP、シーベル、i2テクノロジーズ、ビジネスオブジェクツ、タタ


* * *

じゃ、なぜ優秀なプログラマがいる日本のソフトウェアビジネスがパッとしないの?

 答:それは品質重視の工場型モデルを(相も変わらず)採用しているからにほかならない。「良いものを作れば売れる」主義を信奉するあまり、ビジネスの本質から離れてしまっているから。

 例えば、欧州企業にとってソフトウェアは「科学」として扱われる。コンピュータサイエンスとしての「ソフトウェア・ビジネス」であるがゆえに、形式的手法やオブジェクト指向分析・設計手法が重視される。また、米国企業にとってソフトウェアは「ビジネス」そのものとして扱われる。会社をつくって「まぁまぁ良質」の製品を作り、業界標準を打ち立て、その過程で大儲けしようとたくらむ。

 しかし、日本企業にとってソフトウェアとは「工場出荷製品」そのもの。文字通り「ソフトウェア・ファクトリー」を目指している。標準化された設計開発工程に則り、仕様からほとんどブレない製品を粛々と出荷することを随一としている。「良いものを作れば必ず売れる」信者の松下イズムが蔓延しているため、ソフトウェア・ビジネスの最もメジャーな課題「何が欲しいのか分かっていない顧客に売る」ビジネス視点が抜けている。

 「ソフトウェア企業を創って世界のルールを変えてやろう、その過程で大儲けしてやろう」とニヤニヤしながらコード書いてる奴って、いないでしょ? コスト意識はあるけれど、ベネフィット意識というか、「儲け」を考えている奴ぁ、日本では一握り(←あっ、いまアナタの頭に浮かんだ禿の社長、その人は貴重な一人ですぞ)。

 その「コスト意識」もアヤシイ。コストを削減し生産性を上げることは、確かに重要。しかし、その生産性を測っているのはライン数であることに注目して。ライン単価の愚かしさを語る人が、同じ口で生産性をライン数で語りだすと、なんだかなぁ、と思えてくる。FPでも一緒。「短時間に品質のよいコードを大量に書くことが最優先」という発想そのものが、ソフトウェアファクトリーに根ざしている。本気でやるなら、生産性は銭金で測定しないと。つまり、コードを書くことが目的なのではなく、サービスを提供して儲けることを目的としない限り、いつまでたっても言われるがまま書きつづけることになる。

 プログラマの優秀さと、そのソフトウェアで儲かるかということは、あんまり関係がないことに目を背けている限り、馬車馬のように働いているワリにはちっともカネにならない人生を送ることになる、かも―― と書いておきながら、わたし自身、ちっとも離脱できないでいるのは、ソフトウェアの引力に魂を引かれているからかも。

 このエントリは、渡辺千賀サマの「日本発のソフトが少ないのは日本人が英語が苦手だから」を読んでいるうちに、日本のプログラマダメダメ論になりそうなので、ちょいと昔のエントリを掘り起こしてみた。ヒマな人は元ネタの読書感想文シリーズをごらんあれ。

  「ソフトウェア企業の競争戦略」読書感想文1
  「ソフトウェア企業の競争戦略」読書感想文2
  「ソフトウェア企業の競争戦略」読書感想文3
  「ソフトウェア企業の競争戦略」読書感想文4
  「ソフトウェア企業の競争戦略」読書感想文5
  「ソフトウェア企業の競争戦略」読書感想文6(最終回)

[※注] ソフトウェアファクトリーに関するパフォーマンスの調査報告の出典:Michael A. Cusumano and Chris Kemerer,"A Quantitative Analysis of U.S. and Japanese Practice and Performance in Software Development" Management Science 36, no.11 Novenber 1990

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コメント

単位時間あたり...申告されない残業時間は加味されているのか気になりますね。(爆
ただ(気)真面目さ、と言う点で私の知る限りを中国、インドと比べた場合、中年(高年は居ない)では日本が勝り、若年層では若干落ちる気がします。実際に品質を数値化しても、多分そのような結果が出ている(た)と思います(はずです)。
自動車でも兵器でもコンピューター(ハード)でも、新しいものを生み出すのが苦手な日本ですが、企業ではそいういうのが苦手な人ほど偉くなる仕組みで、そういうものが世に出ない仕組みですから、いたしかたないかと。
逆に起業家は欧米に負けず劣らずだと思うのですが、大きくする(2代目、3代目を選ぶ)時に発送の芽の無い人=社長の犬・猫しか周りに居ないので。
(これからも)頑張れニッポン。

投稿: 鉛のZEP | 2007.02.25 13:56

システムの上流下流について僕のBlogでコメントしたところ、友人がこのブログを紹介してくれました。

こういう統計あったんですねー。

やっぱり細かいところに気を使って生真面目に働く日本人は工場労働者としてもプログラマーとしても平均すれば世界一の質を誇るんでしょうねぇ。

そんな質の高さを生かせないのはやはりマネジメントの問題なんでしょうかね。

投稿: Dshi | 2007.02.25 22:46

せっかくですので、僕のブログにも是非遊びにきてくださーい。

投稿: Dshi | 2007.02.25 22:49

痛い理論だな。
ここにでている調査対象の会社複数と仕事をしたことがあるが、まともなコードを1行も書けないような劣悪なエンジニアが大多数だった。コードに限らず、コンピュータの知識がほとんどないエンジニアも多い。下請けを怠けさせないように、かつ、安く仕事をさせる人材が優秀だとされている。
これらの大きな会社では、ほとんどのプログラムコードの作成を下請けに出しているから、コードの品質での検証は無意味。
ただ、出口の品質についての厳しさについての論旨には納得できる部分がある。下請けに文句を言いまくって、バグを減らすということをする。期限内に仕上げるために、下請けのデスマーチは常態化しているということになる。
ただ、バグの数だけが減るのであって、品質が良いというのとは別なのが残念なところだ。
本質的な品質が低いので、運用開始後のトラブルがあると悲惨だ。

投稿: 通りすがり | 2007.02.26 02:33

>> 鉛のZEP さん

 鋭い、というかあまりにもセキララなご指摘、ありがとうございます。個人的な経験に依拠していいなら、わたしの感覚も鉛のZEP さんに近いものがあります(インド、韓国、中国、モンゴルの若手プログラマと一緒に仕事をしたことがありますが、おしなべてマジメかつ優秀です)。

 ただ、語りのベースラインが経験に基づいている限り、組織的なカイゼンへのアプローチは取りにくいかなぁと思ったり。


>> Dshi さん

 かなり昔のデータですが、フィールドワークに基づく『現状』の共有化を図りたく、このエントリを起こしています。誰かの経験に基づかない、もっと新しいデータがあれば、喜んでそれで分析したいと思っています。


>> 通りすがり さん

 「オレ経験談」、ありがとうございます。わたしの狭い世界での経験から判断しても、ご指摘の通りだと思います。わたし自身、上記の「調査対象」の会社複数と一緒に仕事したこともありますし、海外のプログラマとも一緒に仕事したこともあります(ていうか今もしています)。その上で、通りすがりさんのご指摘に近いものを感じます。

 だからといって、このエントリのデータや、データに基づく分析がゆらぐことは、ありません(だって、わたしの言い分は、あくまでもオレ経験談ですもの)。

 このエントリで網羅しきれていない前提条件や現状認識がないよ、というご指摘なら賜ります(その通りですので)。そんな方へは、どうぞ本書をオススメします。

投稿: Dain | 2007.02.27 00:36

私がこの話を読んだときに思い浮かんだのが「なぜ日本は敗れるか(山本七平)」です。30年も前の言説ですけど、日本の組織の作り方の傾向が述べられているように思いましたが、それになんか似ています。
「松下イズム」よりは「なぜ日本は敗れるか」のような気がするんですよね。旧日本軍が汎用性の高い兵隊をつくら無かったように、ノートパソコンはつくれても、AT互換機は無理だと思うんです。

だっていやでしょ?他人の作った規格に乗るのなんて。

投稿: 通る人 | 2007.03.19 04:04

>> 通る人 さん

 むー、歴史と直感をとっかかりにした議論なので、同意も反論も難しいですね。山本七平氏は、イザヤ・ベンダサンの日本比較文化論でおなかいっぱいなのです。

投稿: Dain | 2007.03.20 00:51

Following my own investigation, thousands of persons in the world receive the credit loans at different creditors. Thence, there is a good possibility to get a secured loan in any country.

投稿: SparksBLANCA | 2012.10.17 21:35

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