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PMP試験対策 1.1フレームワーク

 ここでは、プロジェクトマネジメントフレームワークについてまとめる。プロジェクトマネジメントそのものの『定義』の話。

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■ PMBOKガイドの目的

 第一の目的:プロジェクトマネジメント知識体系のうち、良い実務慣行(good practice)と一般的に認められている部分を特定する。「良い慣行」が"best practice"でないところがミソ。つまり、選択肢中に「唯一の」「最も」「ベストな」が出てきたら疑ってかかる。

 他の目的として、共通用語集、PMBOK知識体系の入り口、PMP育成の参考書といった位置付け。つまり、この分厚なPMBOK3版は入門書(guide)なんだよと言っている。

■ プロジェクトとは何か

 1.有期性(スタートポイントとエンドポイントがある)
 2.独自の(unique)プロダクト・サービス・所産(result)
 3.段階的詳細化(proguressive elaboration)でだんだん詳細化される

 いっぽう、定常業務は業務が継続して反復的に行われるトコがミソ。

 また、プロジェクトは戦略計画を達成する手段の一つとして、市場需要、組織ニーズ、顧客の要求、技術進歩、法的な用件を考慮した上で決定される。

 いつから燃えてるのか分からない火事場に放り込まれ、当初メンバーは逃げ出して「何を作るのか」はアイマイなまま、段階的にスコープが拡大していく(スコープクリープというらしい)―― プロジェクトの定義から最も遠いところで働く。

■ プロジェクトマネジメントとは何か

 プロジェクトマネジメントとは、プロジェクトの要求事項を満足させるために、知識、スキル、ツールと技法をプロジェクト活動へ適用させること。「要求事項」は、必ずしも顧客の要求事項だけに限らないところがミソ。

 具体的には、要求事項を特定し、目標を確立し、品質・スコープ・タイム・コストの競合する要求のバランスをとり、ステークホルダーがそれぞれ抱える関心・期待に応えるために、仕様・計画を適用させる ―― 上司に読ませてやりたい orz

■ プロジェクトマネージャとは

 プロジェクトマネージャとは、プロジェクト目標を達成する責任を負う人のこと。プロジェクトの実行責任者であり、失敗したときは説明責任がある。チームをアシストし、ステークホルダーの対立を解消する人でもある。制約三条件のバランスをとりながら、プロジェクトをファシリテートする人

 制約三条件として、スコープ、タイム、コストがある。品質は含まれない。プロジェクトの品質はこの3要因のバランスを取ることによって決まる。つまり不具合ゼロのシステムを期限通りサービス開始できたとしても、予算を大幅超過してたら、プロジェクトとしての品質は悪い、ということやね。

■ ポートフォリオ、プログラム、プロジェクト、サブプロジェクト

 ネストはこんな感じ。定常業務はプログラムの配下にぶら下がるところがミソ。

  ポートフォリオ
   └プログラム(複数のプロジェクト、定常業務含む)
      ├プロジェクト
      │ └サブプロジェクト
      └定常業務

■ プロジェクトマネジメントに必要な専門領域

 [p.13:PMBOK]の図を参照。PMBOKだけではない。適用分野の標準・規制、プロジェクト環境(文化・社会的環境、国際環境、物理的環境)、一般的なマネジメントスキル、人間関係のスキルがあるそうな。PMBOKはプロジェクトマネジメントを行うために必要な専門領域の『一部』であるところがミソ。

■ PMOとは

 プロジェクト・マネジメント・オフィスのことで、複数のプロジェクトを一元管理し、プロジェクト間の調整を図る… とあるが、リアルは単なるテンプレ屋だったり火消し屋衆の寄せ集めだったりするので要注意。

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PMP試験対策【まとめ】


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悪魔の詭弁術

詭弁論理学 「わたしと仕事、どっちが大事? はなぜ間違いか」の紹介エントリ[参照]でオススメいただいた詭弁本をいくつか。容易に悪用できるので、詳細はカンベンな。

 詭弁術の実例は、fj や 2ch でさんざ見てきたので今さら感もあるのだが、こうして体系的に見せられるとなかなか興味深い。このテのは昔も今も変わらないもんだなぁ…

 まず qinmu さんにオススメいただいた「詭弁論理学」は、よくまとまっている。ナントカの一つ覚えのように主張を繰り返す小児強弁型、相手=悪、だから、自分=正しいとする二分法、論点のすりかえ、主張のいいかえ、ドミノ理論(風が吹けば桶屋)と、誰でも一度は聞いたことがある詭弁術が紹介されている。強弁が強盗なら詭弁は詐欺だという主張にナットク。例は多少が古めかしいが、中身は全く現役だ、今夜もどこかの板で議論されているハズ…

 そういや、2ch の詭弁のガイドラインに詭弁の特徴15条があったので貼り付けておく。2ch とセガBBS が詭弁の応酬の練習場だったなぁ(ずいぶん遠い目)… 今はblogで旺盛だねッ

■ 詭弁の特徴十五条

  1. 事実に対して仮定を持ち出す
  2. ごくまれな反例をとりあげる
  3. 自分に有利な将来像を予想する
  4. 主観で決め付ける
  5. 資料を示さず自論が支持されていると思わせる
  6. 一見関係ありそうで関係ない話を始める
  7. 陰謀であると力説する
  8. 知能障害を起こす
  9. 自分の見解を述べずに人格批判をする
  10. ありえない解決策を図る
  11. レッテル貼りをする
  12. 決着した話を経緯を無視して蒸し返す
  13. 勝利宣言をする
  14. 細かい部分のミスを指摘し相手を無知と認識させる
  15. 新しい概念が全て正しいのだとミスリードする

論理で人をだます法 もう一つ。cyclolith さんに教えていただいた「論理で人をだます法」は、邪悪だ。これは、相手を貶めるためのありとあらゆる口技が紹介されている。網羅性はピカイチで、使われたことも、使ったこともあるに違いない。

 相手の主張の是非なんか一切問題にしない。主張の力を貶め、相手の人格を攻撃し、的外れの例を持ち出してそれをこきおろし、聞き手の感情に訴え、単純な構図に押し込み、関係のない話題へもっていき、質問には質問を返し(カウンタークエスチョン)、論点をあいまいにするための手段が徹底的に実例つきで紹介されていて、まさに悪用厳禁。

 さらに、その実例がいちいちうなずけるのよ、わたしもよく使うから、その威力は知っている。書くと丸分かりだけど、話し言葉として上手に「使う」やり方は、本書が非常に参考になる。

■ 悪魔の詭弁術

  • みんなやってるよ── バンドワゴン・アピール
  • ご存知のとおり、この問題のそもそもの原因は… ── 決め付け
  • 逆に教えてくださいよ、ぜひ── 質問に質問を返す(カウンタークエスチョン)
  • 主張を証明できないなら、その主張は嘘だ
  • ぜったい対まちがいないよ── 憶測にすぎない話を、事実であるかのように話す
  • 言っていないことを言ったことにする、そしてそれを攻撃する── わら人形テク
  • 「すべて」と「一部」を混同し、一部でもってすべてとするテク(○○人はみんな△△だ!)
  • 質問のすりかえ、そしてすりかえた質問に答えるテクニック←悪用厳禁!

 特に最後のやつは、わかりやすい例を用いており、今すぐ使える詭弁テクだな。そして、もっと非道なのは、詭弁を見つける手段までは紹介してくれてても、それをなんとかして、切り返す・切り崩す・話を元に戻す方法はぜんぜん書いていないところ。つまり、相手をホンキで貶めようとするならば、ある種のテクニックを使えば、かなり容易だってこった。

 ご利用は計画的に。

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PMP試験対策【まとめ】

PMBOKガイド3版 PMP試験対策の入口へようこそ。

 PMP対策のための一連のエントリは、ここにリンクを貼り、(わたしを含め)読者のお役に立てるようにする。コンテンツも無いのにいきなり【まとめ】を作ったのは、自分を追い込むため。さらに宣言する→2007.1 中にPMP資格試験を受験し、合格する

このシリーズの目的

  • PMP試験に『わたしが』合格する(2007.1) 合格しますた(2007.1.20)
  • PMP試験対策で勉強したことを整理するために書く

(わたしを含む)このシリーズを読む人のための注意事項

  • PMBOKガイド3版がベース
  • Rita 本は2000年版がベース(したがって、古い)
  • あくまで『わたしの』理解なので、誤りがあるかもしれない。読み手は参考程度に留めておいたほうがよいかと
  • まちがいじゃね? ツッコミ歓迎
  • PMBOK3を持っていることが前提(のつもりで書くので、2000版との違いだとか、インプット/ツール/アウトプット一覧とか、どこかに載っていそうなものは割愛)
  • 参照方法[p.40:PMBOK]と書いたとき、PMBOKガイド3版の40ページのこと(無料の pdf は[ここから入手]できるが、登録が必要なのと英語なのでご注意)
  • pdf(英語)、ペーパーバック(日本語)、ペーパーバック(英語)全て同じページ番号なので、原著にあたるとき便利かも
  • 前回[参照]と異なり、網羅性は追及しない。採れるところはPMBOKガイドでおさえ、ヤヴァそうなところはこのblogで徹底的につぶす
  • オタネタ禁止(できれば)

このシリーズは、たぶん、次のような構成になる。

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1. まず全体を把握する
 1.1 フレームワーク
 1.2 ライフサイクル

2. プロセスから整理する
 2.1 プロジェクトマネジメント・プロセス
 2.2 立ち上げプロセス
   2.2.1 「立上げ」の目的とやっていること
 2.3 計画プロセス
   2.3.1 「計画」の目的
   2.3.2 「計画」でやっていること(スコープ)
   2.3.3 「計画」でやっていること(タイム)
   2.3.4 「計画」でやっていること(コスト)
   2.3.5 「計画」でやっていること(リスク)
   2.3.6 「計画」でやっていること(品質、コミュニケーション、人的資源)
   2.3.7 「計画」でやっていること(調達)
 2.4 実行プロセス
 2.5 監視・コントロールプロセス
 2.6 終結プロセス

3. 計算問題は確実に取る
 3.1 アーンド・バリュー
 2.2 クリティカルパス
 3.3 コミュニケーション・チャネル
 3.4 三点見積り
 3.5 IRR [p.146:Rita]
 3.6 ペイバックピリオド
 3.7 BCR(利益コスト率)
 3.8 機会コスト
 3.9 サンクコスト

4. 『わたしが』覚えるべきこと

5. おまけ
 5.1 PMP試験対策(PMBOKガイド2000版対応)シリーズの入口
 5.2 なぜPMP試験は難しいのか?
 5.3 解答のポイント
 5.4 PMP受験報告
 5.5 「PMP試験実践問題」はアラ探ししながら読むのが正しい
 5.6 PMP試験の準備(わたしの場合)


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履歴
2006.11.10追加 PMP試験対策 1.1 フレームワーク
2006.11.14追加 PMP試験対策 1.2 プロジェクト・ライフサイクル
2006.11.21追加 PMP試験対策 2.1 プロジェクトマネジメント・プロセス
2006.11.30追加 PMP試験対策 5.3 解答のポイント
2006.12.15追加 PMP試験対策 2.2 立ち上げ
2006.12.17追加 PMP試験対策 2.3 計画
2006.12.19追加 PMP試験対策 2.3 計画
2006.12.27追加 PMP試験対策 2.3 計画
2006.12.30追加 PMP試験対策 2.3 計画
2007.01.05追加 PMP試験対策 2.3 計画
2007.01.24追加 PMP試験対策 5.4 おまけ
2007.01.29追加 PMP試験対策 5.5 おまけ
2007.02.02追加 PMP試験対策 2.3 計画
2007.02.08追加 PMP試験対策 5.5 おまけ

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なぜPMP試験は難しいのか?

PMBOKガイド3版 語弊があるのでこう言い換える── 「なぜわたしはPMP試験対策を難しいと感じたのか」ってね。2年前に始め、投げ出した受験勉強で、少なくともこの疑問に答えられるようになったので、書く。再起動の意思を込めて。

■ 範囲が膨大

 試験対象はPMBOK3、すなわち、プロジェクト・マネジメント知識体系ガイド第3版なんだけど、A4版で400ページある。たっぷり文字が詰まっているので、初めて開けたときは正直ひるんだ。

 しかし、見方を変えるとここからしか出ない、とも言える(プロフェッショナル責任は別)。PMBOKガイド+問題集+αで、合格ラインの勉強時間の目安は、およそ120時間だという。もちろんこれより短い時間で合格した人もいるし、もっと長い時間をかけても不合格だった人もいる。それでも、最低でもこれぐらいやれるようにスケジュールを組みなおそう。

■ アタマに入ってこない

 PMBOKは「知識体系」なので、実践での適用とは異なった順番で説明されている。たとえば品質マネジメント。「品質計画」「品質保証」「品質管理」のそれぞれのプロセスは、異なるフェーズで実施されるプロセスであるにもかかわらず、8章プロジェクト品質マネジメントにてひとくくりで説明されている。「品質マネジメント」に特化して、

 1. 計画プロセスで品質計画を立てる
 2. 実行プロセスで品質を保証をする活動を実施する
 3. 監視プロセスで品質管理を行う

 のように書いてあり、それぞれのプロセスでの相互依存関係で語られていない。体系的なものにするために、それぞれのプロセスから摘出しているわけ。これがアタマに入ってこない最大の理由。

 プロセス順に考えると、「品質計画」に先行するプロセスは「WBS作成」で、後続するプロセスは「スケジュール作成」だ(p.47:PMBOK)。その結果、

 1.WBSを作成する
 2.(WBSを元に)品質計画を立てる
 3.(品質計画を元に)スケジュールを作成する

 この順番で作業が進む。流れが納得できるし、何よりもそのプロセスのアウトプットが、後続プロセスのインプットになることが理解できる。だから3章のプロセス相互作用図を見ながら、プロセス順にインプット→ツール→アウトプットを押さえるべし

■ なぜ『正解』なのか納得できない

 ためしに問題を解いてみると、ボロボロの結果になる。『正答』なる選択肢を見ても納得できない。なぜそれが正解なのか理解できないし、説明はPMBOKガイド○ページ参照とあるだけ。実際のプロジェクトではそれは『正解』からは程遠い選択肢なのに…

 それは、解く姿勢が間違っている。アンタのプロジェクト経験談を訊いているわけではなく、PMIなら何を推奨するか、と問うているわけなのよ。典型的なのは、対立の解決手法。以下の手法のうち、最も妥当なものに○、もっとも不適当なものに×をつけるなら、どうなるだろうか?


  • 強制:業務命令、執行指示×
  • 撤退:意見を取り下げて、相手に従う
  • 鎮静:同意できない点は目をつぶって先送りする
  • 妥協:ギブアンドテイク

 答えは反転文字で書いた。現場で対立が昂じてきてどうしようもないほどヒートアップしたとき、「○」で記した解決策はありえない。少なくともわたしの経験では、むしろ「×」で記した方が有効だった。

 だから、自分の経験で回答しようとすると、間違いなく間違える。だから真偽はともかくガイド通りに答えるのが吉。

 さて、ネットに向かって宣言することで自分を追いやってみるとしよう ── PMP対策の勉強を再開する。合格期限は、2007.1 とするってね。短期決戦のため、以前のように勉強の軌跡を記す余裕はないだろうけれど、自分が学んだことを整理する場として、このblogを使ってみるつもり(誰かの役にたつとイイナ!)。

⇒以前のPMP対策シリーズ:プロジェクト・マネジメント・プロフェッショナル資格試験対策(※注:PMBOK2000版)

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「ローマ人の物語」を10倍楽しく読む方法:カエサルはこの順に読むべし

 塩野七生「ローマ人の物語」は自信をもってオススメできるんだけど、いかんせん緩急というか浮き沈みが激しい。

 書き手がノっている巻は措クニアタワズという言葉がピッタリするぐらい本を閉じさせてくれない。そうでないところは飛ばしてしまっても一向に問題ない。重要なポイント―― ローマ人の気質というか本質にかかわるエピソードは繰り返し書いてくれているので、読み落としの心配はいらない。

 それでは、このblogの読者さまに美味しいトコ取りをしていただくため、カエサル編の読み順をご紹介。西洋史の全ての時代からトラックバックを打ち込まれている巨人、ユリウス・カエサルを『楽しく』読む順番といってもいい。

塩野七生 著
  ローマ人の物語 8巻 ユリウス・カエサル ルビコン以前(上)
  ローマ人の物語 9巻 ユリウス・カエサル ルビコン以前(中)
  ローマ人の物語10巻 ユリウス・カエサル ルビコン以前(下)
  ローマ人の物語11巻 ユリウス・カエサル ルビコン以後(上)

ユリウス・カエサル著
  ガリア戦記
  内乱記

ローマ人の物語9巻結論:上記を、次の順番で読むと相乗効果を楽しめる。後を引くので、夜更かしにご注意、徹夜コースかも。
  9巻→10巻→ガリア戦記→11巻→内乱記

■ 「ガリア戦記」まで

 まず塩野本。8巻はカエサルの生い立ち~出世する前までの話なので、スッ飛ばしてOK。読みどころは著者からカエサルへの恋慕の情なので、つき合う気がないなら9巻から始めて良し。事実関係を知りたいならば、Wikipediaのガイウス・ユリウス・カエサル[参照]にある「生い立ち~政治キャリアのスタート」を読めば良いかと。

 次にカエサル本。「ガリア戦記」も「内乱記」も名著との誉れ高く、名著にありがちな小難しさ&物量は無いため、これまた自信をもってオススメできる。あの小林秀雄をして「もう一切を忘れ、一気呵成に読み了へた。それほど面白かった」と唸らしめるほど面白いと言えば伝わるだろうか。ただし、「ガリア戦記」「内乱記」とも簡潔かつ明瞭、極限まで装飾を殺ぎ落とした100%筋肉質の文章なので、とっつきにくいかもしれない

ローマ人の物語10巻 さらに、「カエサル」という一人称で全てを見通しているため、戦略・外交・諜報活動の因果関係が見えにくい。当時の勢力図や政敵との関係、文化的背景といったバックグラウンドを知っていれば、そのスゴさが分かる。外交戦であれ、戦場であれ、カエサルが打った神のような一手に背筋が凍る思いをするためには、その背景を知る必要が出てくる

 そこで塩野本の登場、9、10巻はガリア戦記を中心に、政治的・文化的な背景を補完している。当時のガリア~ローマを俯瞰するかのように書いてくれている。「物語」の名にふさわしい、いわば神の目で追いかけてくれる。そのため、「○○であることは知るよしもなかった」とか「もし△△ならば、死なずにすんだだろう」といったものすごく思わせぶりな書き方をしてくれちゃっている(読ませ上手だねッ)

ガリア戦記 すると、「ガリア戦記」が是が非でも読みたくなる。「おいおい塩野さん、あンたが自由に評するのは勝手だが、カエサル本人は何て言ってんだ?」という疑問がおさえきれなくなってくる。

 はちきれるほどの読欲を「ガリア戦記」は受け止めてくれる。塩野氏がやったように、裏読みもしたくなる。元老院への報告書の体裁を取った戦記モノを超えて、カエサル本人のためのプロパガンダとして読めてくる(で、ファンになるにちがいない)。

■ 「内乱記」まで

 ルビコン前が「ガリア戦記」なら、ルビコン後が「内乱記」だろう。「ガリア戦記」はその名の通り、ガリア遠征でのカエサルの戦いの記録であり、「内乱記」もこれまた名前どおり、カエサル vs ポンペイウスの死闘を描いた内戦の記録となる。

ローマ人の物語11巻 どちらも簡潔明瞭な文体ながら、「ガリア戦記」と「内乱記」は、書き手の気持ちが違う。ローマの外側へ拡張する意志と、内側を改革しようとする意志の違いになるのか。この「ガリア戦記」と「内乱記」を書いた意志(というか、動機)は、塩野氏が11巻でこう言い切っている

「内乱記」は「ガリア戦記」とちがい、全編を通して流れる主調音は、敵に対するカエサルの軽蔑である。憎悪も怨念も復讐心も、自分は相手よりは優れていると思えば超越できる。憎悪や怨念や復讐欲は、軽蔑に席をゆずる

 これも、本当かァ? とつぶやきながら「内乱記」を読みたくなってくる。カエサルは捕えた敵将を殺すことなく解放し、その敵将がリベンジしにくるといった、諸葛孔明と孟獲みたいなことがあったらしい。7度逃がしたかは別として、敵味方が入り乱れているので、いきなり「内乱記」を読むとわけわからなくなる。11巻で予習しておこう。

 なぜカエサルは「内乱記」を書く気になったのか。11巻で塩野氏が読み解いているが、「内乱記」そのものを読みながら再考すると面白い。

 なぜ「内乱記」を書いたのか? "あの"カエサルが後世の判定に委ねるといったしおらしいことを考えるはずがない。「ガリア戦記」ですら同時代を意識して書いている。つまり、元老院の許可なくガリアで戦争を始めたことの弁明や、執政官に立候補するためのプロパガンダの意図が透けて見える。いわんや「内乱記」をや。

内乱記 だから、この疑問は、次に置き換えると明白になるかもしれない──「なぜカエサルはルビコン川を渡って、祖国に弓を引いたのか」。市民同士が戦いあうのを避けたいと願い、あらゆる手段で平和交渉に努め、妥協と譲歩を重ねたにもかかわらず、自分の業績を無に帰しめるばかりか、名誉を陥れようとする「政敵」がいる。奴らのおかげで、盟友ポンペイウスまで敵対するようになってしまい、この内乱が勃発したのだ。だから、その責任は奴らにある、とローマ世界に訴えたいがため、ペンを取ったに違いない ――

 世界史は必修でなかったわたしが、こんな風に考えるきっかけをつくったのは、もちろん「ローマ人の物語」のおかげ。歴史家が唱える史実に囚われず、もっと自由に読んでもいい、とする塩野氏に感謝。

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