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「マルドゥック・ヴェロシティ」はスゴ本

 「ターミネーター」観たことある? 最初の奴だ、シュワちゃんが悪玉の奴。あのターミネーターの『視界』を覚えてる? 赤外線カメラの映像をベースに、重要物はロックオンされ、ナレーションが文字列で表示される。あのシュワちゃんビジョンを『読む』ような錯覚にとらわれた── そんな独特な文体。

 結論── とことん堪能した。前作の「マルドゥック・スクランブル」同等、スゴ本なり。ギブスンを意識したサイバーパンクアニメを『読む』ようなカンジ。人によると、「攻殻機動隊」や「マトリックス」を思い出すかも。わたしの場合、洗練されていない主人公の泥臭い動き方と、表紙絵がどう見てもシュワちゃんなので、「ターミネーター」(T1のやつ)のイメージがついてまわってしょうがなかった。

 この手のストーリーやキャラは散々アニメで"消費"したくせに、小説というカタチで読まされると、ものすごく新鮮に見える。たとえば、バトルシーンはこんな風――

 左手袋の一部を手錠に変身──ナタリアの背後に回る。
「手を腰の後ろに」
 素直に応じた。「ニコラスから聞いたわ。あんた、壁をあるくんですって?」
 手錠をはめて拘束した。「立つんだ。ここから出たらすぐに外す」
 立たない。その姿勢のまま、手錠を鳴らしながら身をよじって、こちらを見た。「私もそういう特技を持っている人を知ってるわ」
 その瞳の奥に、光──確信、挑戦、警告。
《戦意の臭いだ!》ウフコックの悲鳴のような無線通信。
 頭上──斜め上。カサカサと何かが小さな音を立てる。
 ボイルドは重力の壁を展開させながら飛び退いた。
 バスルーム──天井付近の陰から、巨大な赤いゴキブリが飛び出し、長い金属の手を突き出してきた。義手──五本の指の先から伸びる注射針──ボイルドの胸へ。
 機会の腕に重力を叩きつけがなら身をひねってかわす──壁に針が刺さる。折れる。
「おかあああああさん!」ゴキブリやろうの絶叫。
 右手の拳銃を振りかざして跳躍──重力──部屋の壁に向かって落下。
 膝をついて着地。真っ赤なゴキブリが猛スピードで天井を走って廊下から飛び出す──まるで発射された弾丸のような速度──追いかけてくる。「おかあああああさん!」

 主人公ボイルドは、自分で「下」を決められる。つまり、重力を自在に操ることができる── はいそこの人どうぞ~、「エコーズACT3」ですね、正解!そのパートナー、ウフコックはしゃべるネズミ。通常は手袋の形でパートナーと一体化しており、どんな武器にでも変形できる──はいそこの人~、「ミギー」ですか、ウフコックは拳銃にも変形できるケド、まぁ正解。

 以降、新手のスタンド使いがたんまり出てくるけれど、奴らの特殊能力がスゴいのではない。それをストーリーに組み込もうとする仕掛けが面白い。本来、軍事技術を流用した特殊技能は、社会にとって危険なもの。その管理・運用を法律的にバックアップする"マルドゥック-09"(オーナイン、と読む。009を意識?)をめぐる確執が面白い。エアカーが普通の未来社会でありながら労働組合でゴト師が跋扈する階級社会でもある。

 ダークサイドもちゃんと書いている。嗜虐性快楽(?)も行き着くところまで行っており、子どもに麻薬を与えてハイになったところで右手を散弾銃で吹き飛ばす―― 子どもは分かってなくて「気持ちいいよ、気持ちいいよ」と悦びながら死んでゆく… そういうスナッフを見てマスターベーションする、といった陰惨な嗜好も描かれている。

 じゃぁ異能バトルSFなのかというと、ちゃんとミステリにもなっているところが面白い。次から次へのバトルシーンを夢中になって読んでいると、後半のどんでん返しにあっと驚くだろう。いや、主人公が前作でどういう運命をたどるかは、読んだ方は知ってるから、余計に興味深い(前作では最強の敵役として出てくる)。「ヴェロシティ」を最後まで読んだあとは、あらためて「マルドゥック・スクランブル」を再読したくなる仕掛けもほどこしてある

 そこ至るまでに主人公ボイルドが見た虚無は、あまりにも深い。

マルドゥック・ヴェロシティ1マルドゥック・ヴェロシティ2マルドゥック・ヴェロシティ3

 前作である「マルドゥック・スクランブル」もスゴ本。時系列だと「ヴェロシティ」→「スクランブル」なんだが、最も楽しめる読み順は「スクランブル」→「ヴェロシティ」

 「マルドゥック・スクランブル」の主人公はバロット。死線を超えて甦った彼女は驚異的な空間認識力を得る。何にでも変化できる万能兵器ウフコックを使い、正確無比な射撃で「敵」を仕留めてゆく。陶酔感をまとった圧倒的な力の行使は「マトリックス」や「リベリオン」を髣髴とさせる(筆者はその前に書いたという)。いや、たとえ観ていたとしても弾丸で弾丸を弾き飛ばして軌跡を変えたり、突きこんでくるナイフの切っ先に合わせて剣で突くなんて、まず書けない(思いつかない)。

 物語の主軸は「自分の価値=有用性をいかに示すか」にある。激しい戦闘の描写に、このテーマも霞みがちだが、バロットも、ウフコックも、「敵」となるボイルドやシェルでさえ、自己の価値を見出そうとする…飛び交う弾丸や、血漿や脳髄の中に。

 バロット自身の「有用性」は「商品としての少女」から始まった。モノとしての性。部分としてのフェティシズム。そして、彼女の過去に娼婦以外の「有用性」を探した男のおぞましい話、さらにマルドゥック-09の証として生きのびることがウフコックのための「有用性」、最期は"そこに居ること"に自分の価値を見出す。これは実存の物語でもある。人は道具ではない。兵器として最強究極の「道具」である彼女がそこにたどり着くまでの、長い長い話とも読める。

マルドゥック・スクランブル1マルドゥック・スクランブル2マルドゥック・スクランブル3

 アニメ公式サイトは[ここ]GONZOの仕事だが、CVが林原めぐみなので期待高し。「ヴィジュアルテロリズム」だそうな。もう一年も待ちぼうけを食らわされている… ま、気長に待ちましょ。「スクランブル」も「ヴェロシティ」も3巻本とボリュームがあるので、アニメを入り口にするというテもあり。2006.12.23追記:GONZOがこの仕事を降りたらしい…

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コメント

このへんにはまるなら、ブラックロッド、ブラッドジャケット、ブライトライツ・ホーリーランドの三部作(古橋秀之著)もおすすめ。
アクションと異形のビジュアルという意味では似通っています。

投稿: poke | 2006.12.21 01:30

いつも楽しく読ませていただいております。

些細なことなのですが、重力の向きを自由に変えられるのは
「C-MOON」だったと思います。「エコーズACT3」は重力を
強くするスタンドでした。

投稿: fakufaku | 2006.12.21 03:33

「C-MOON」は、重力の向きを自在に変えることはできなかったと思います。
たしか、スタンドの射程範囲内で重力の向きを自分から放射状にするだけでは?
(あと、殴ったものの表裏を反転させる能力も有していたと思います。)

投稿: ほげぃ | 2006.12.21 04:13

リンク先のGONZO入ってみたら、
あら?アニメ製作が中止・・・!!
なんでだー。・゚・(ノД`)・゚・。 うえええん

投稿: kokoGD(萌興画展) | 2006.12.21 19:22

>> poke さん

 オススメありがとうございます。

 「アクションと異形のビジュアル」ですか、わたしにとって未踏破のジャンルですので、興味があります。「ブラックロッド」から手をつけてみようかと。


>> fakufaku さん 、ほげぃ さん

ジョジョネタへの反応ありがとうございます。

 「マルドゥック…」のボイルドは、擬似重力を発生させる能力を有しています。自分の『外側』に向かって重力を展開させることで、銃弾や剣先の軌道をそらしたり、壁や天井に『向かって』着地したり、歩いたりすることができます。

 自分を中心とした重力の向きを変えられるという点では、C-MOONに似ています。また、殴りつけることで、相手の武器にかかっている重力の向きを変えて「重く」するところは、ACT3ぽいですね。


>> kokoGD(萌興画展) さん

な、なんだってー!!(AA略
映像化できたらトリハダものなのに…

さらに気長に待つことにします…

投稿: Dain | 2006.12.23 21:42

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