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「わたしと仕事、どっちが大事?」はなぜ間違いか

「わたしと仕事、どっちが大事」はなぜ間違いか タイトルで惹かれて一読、これはイイ! これは使わせてもらおう。

 ロジカルシンキングやMECEといった論理的思考ツールは、確かに仕事に使えるまで砥いできたが、肝心の議論に役立ってはいない。あ、いや、「自分の考えを的確に表現し、相手に理解させる」ツールとしては有効だけど、

 ・議論が紛糾したとき
 ・自分の結論へ誘導したいとき
 ・自分の主張に言いがかりとつけられたとき

 これっぽっちも役に立たない。「おまえの意見はよく分かったが ──

 ── そんな話はここでは通用しないよ」
 ── SEにはカネのことなんか分からないんだ」
 ── 他の人もみんなそうじゃないと言っているよ」

 と断言されると、一瞬、どう返していいか言葉に詰まる。議論は黙した方が負け、というルールに従って引き下がらざるをえなくなる。しばらくたって、その「反論」は何の根拠もないことに気づくが、議論はもうあさっての方向へ行っている。

 仕事の場に限らない。この、攻撃するためだけの反論をぶつけられたとき、どう対応していいか分からなくなる。もたもたしていると主張そのものにケチがつく。相手の狙いは正にそこで、主張のロジカルさや明解さなんて二の次だったりする。こんなとき、どうしたらいいか?

 本書では、議論を誘導するためのテクニックが紹介されている。

 【誘導尋問】

  • 誤導尋問「お支払いは現金になさいますか、それともカードにしますか」
  • 誤った二分法「人間は金持ちか貧乏かだ」
  • 二者択一誤導尋問「私と仕事、どっちが大事?」
  • 論点のすり替え「『借金を返せ』だと? 信用できないのか!侮辱するな!」

 【詭弁に見えない詭弁】

  • 循環論法「AはBである。なぜならば、BはAだからだ」
  • 事実の信憑性「○○君が××だと言ってたよ」
  • 誤ったグルーピング「商売人には政治のことは分からない」

 【よく使われる反論のための反論】

  • 常套句「そんなのナンセンスだよ」
  • 見えない多数派「みんなやっているよ。どうして私だけが…」
  • 自尊心という魔物「まさかそんなレベルの低いこと言わないよね」

 それだけではない、そうした詭弁へ対処するためのテクニックも同時に説明されている。相手の詭弁へ打撃を与える反論術だな。つまり「ああ言えばこう言う」パターンが分かる。簡単なやつなら、口ぐせとして覚えてしまいたいほどシンプルだ。例えば、「常套句」への反論──

  「そんなの世間では通用しないよ」
  「それは本質的な議論ではないよ」

 などと、感情的に一方的に議論を打ち切ろうとする相手に対しては、

  「どういう意見が通用するの? この意見が通用しない理由は?」
  「では本質的な意見とは何でしょうか? 私の意見との違いは?」

 と理性的に返せばいいし、もっとシンプルに、

  「世間というのは、あなたの意見のことではないの?」
  「本質というのは、あなたの意見のことじゃないの?」

とサクっと突いてもいい。嫁さんと口論になったときのトドメとして覚えておこう。

 また、非常に使える「立証責任」を学んだ。命題の正しさを証明するためには100%正しいことを証明する必要があるが、命題が誤っていることを証明するためには、たった一つの反証を挙げればいい。だから、議論では「正しさを証明する立場」=「立証責任」を相手に押し付けた時点で優位になる、というテクニック

  • A 「この動作はバグだ、いますぐ修正してもらおう」
  • B 「いいや、これは不具合ではありません。したがって変更するなら追加料金が必要です」
  • A 「バグに決まってるだろ。そうでないなら、説明しろ」
  • B 「それは筋が違います。不具合だというならば、まずその理由を説明してください。あなたが異を唱えなければ、何も変える必要はないのだから、変えなければならない理由を説明しなければならないのは、あなたです

 立証責任が行きつ戻りつしているのが分かる。「○○すべきである(ない)」と言った瞬間、そうである理由をキチンと説明しなければならなくなるし、反論する側は、そうでない理由を一つ挙げれば済む。

 さらに高等で、議論でアツくなっている頭には難しいかもしれない(が、使えたら鬼棒)テクニックとして、「飛び火作戦」「そもそも式論法」「門前払いの手法」「言質を取る質問術」が紹介されている。特に「飛び火作戦」と「そもそも式論法」は顧客よりよくヤられる攻撃なので、再読して備えることとする。

 本書が重要なのは、詭弁を弄させて、議論のための議論に陥ることを防ぐため。議論のゴールに全員の目を向けて、ゴールを目指した議論にするため。そうでなく、会議で一目おかれたいとか相手を屈服させたいとか、はたまた一言居士の奴等には、悪魔の手引書となるかもしれない。

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コメント

ブログのトラックバックや掲示版を利用して、その内容とは全く関係の無いリンクを張るのは最近の流行なのでしょうか?
ブログがお金になる(?)という噂(??)を信じて客引きに奔走する商売ブロガーが増えてるんですかね。
さて本題、オウムのジョーユーさんが懐かしく思い出される内容でした。内容の成否よりも喋りのテクニックでその場をしのぎ、その後しばらくの間優位を保つ...んで、最後は大火事になって火消しが焼死する。
なぜ神聖なるビジネスの場でこんな事をやろうとするのか?それはこういう奴ら(企画営業やら)の尻拭いをするのは別の人々(SEやら)だからなんですよね。
P.S.
ご無沙汰です。実家に戻ってきました。単身赴任最後のPJは驚く無かれノートラブルで大成功でした!今年は良いぞぉ~(^o^)丿

投稿: 鉛のZEP | 2006.10.16 20:04

R.A.グーラ著、山形浩生訳の『論理で人をだます法』ってのもありますね。『論理で〜』の方はダメ論理事典と言った感じで、反論の仕方までは書いてなかった気がしますが。

投稿: cyclolith | 2006.10.16 20:34

はじめまして。はてブのホットエントリーからやってきました。「世間というのは、あなたの意見のことではないの?」ってのは、本当そうだと思いましたー!おいらも読んでみたいです~。

投稿: kori-man | 2006.10.16 20:45

>> 鉛のZEP さん

 ああ、エロックバックは無視しといてください。お目を汚さないように毎日消していますが、忘れてしまうこともあるので…

 火消し部隊が焼死するのは、9.11のNYFDが脳裏にチラついて他人事ではないです。対岸の火事プロジェクトに応援にいったはいいけれど、うつ病になって戻ってきた人を見るにつけ。

 プロジェクト成功おめでとうございます!拝察するに、最も大切な「健康」を損なわずにゴールまでたどり着いた、ということだけでも素晴らしいことだと思います。


>> cyclolith さん

 おお、よさげな本のご紹介、ありがとうございます。翻訳が山形浩生というだけで手にとって見たくなりますね(いや、ヘンな意味ではなく…)。図書館に行ってきます。


>> kori-man さん

 ありがとうございます、くれぐれも悪用厳禁ということで。

投稿: Dain | 2006.10.16 23:40

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