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「わたしを離さないで」は重い思い出になる

わたしを離さないで スゴ本なんだが、どこまで紹介していいか分からない。カズオ・イシグロを知っているなら黙って読めとオススメするが、知ってる人なら既読だろう。だから、彼の作品を知らない人向けに語ってみる。

 …とはいうものの、この小説に隠されている秘密はご自身で確かめていただきたいので、とても抽象的にレビューする、ご勘弁。

 これはとても奇怪な小説。静かで端正な語り口から始まって、いかにもありそうな共同生活が語られる。淡々と語られる「思い出」が積み上げられていくうちに、読み手はだんだんと不安な心持にさせられる。彼女は何を伝えようとしているのか、と。

 それでも語られる内容は、ありふれた人間関係と思い出ばなし。イギリスの全寮制の学校を舞台としたドラマ? でもこの微妙な違和感は? と思いながらも、語り手の真摯さに思わず引き込まれる。

 真実は薄皮をはがすように、一枚また一枚と明らかになってゆく。読み手は自分が抱いた違和感(異物感?)を半ば確信しつつも、もどかしさにページを繰るだろう。書き手はそれを充分に意識した上で、抑制の利いた語り口でじわじわと切迫感を募らせてゆく…

 この小説が、いったい何をテーマに語っているのかが分かる段階では、読み手は、この語り手から目を離せなくなるだろう。結末がどうなるか、ではなく彼女が何を伝えたいのかが気になって仕方がない。… いや、ネタをバラしてもいいんだが、作品世界を成り立たせている要素の一つ一つは、ご自身の目で発見して欲しい。予備知識ゼロで、どうぞ。

 … ここまで書いて、何のこっちゃか全然分からんね。だから、朝日日曜版レビュー(2006/5/28)の一文を引用する。(読み終わったわたしに)突き刺さってくる。

 わたしたちは、何かの目的のために生まれるわけではない。生まれるために生まれ、生きるために生きる。なぜ、生きていくのか、わからないままに、先の見えない暗闇を進んでいく。ある目的のもとに生を受け、役割を果たして死ぬ彼らは、その点で私たちとまったく異なってみえる。だが、どんな圧力が彼らの生を限定し未来を縛ろうとも、命それ自体は、目的など無効にして、ただ生きようとするのだ。生きるために。

 これは、感動ではない。この気持ちに名前をつけることはできない。この気持ちは誰も経験したことがない。しかし、わたしは知っている。この未来があることを。この気持ちは、いずれ誰もが経験することを

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 カズオ・イシグロ著作リスト。「わたしを離さないで」と「日の名残り」は自信をもってオススメ。

A Pale View of Hills (1982)「遠い山なみの光」 ハヤカワepi文庫
An Artist of Floating World (1986) 「浮世の画家」 中公文庫
The Remains of the Day (1989) 「日の名残り」 ハヤカワepi文庫
The Unconsoled (1995) 「充たされざる者」 中央公論社
When We Were Orphans (2000) 「わたしたちが孤児だったころ」 ハヤカワepi文庫
Never Let Me Go (2005) 「わたしを離さないで」 早川書房

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コメント

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投稿: BennettDaphne33 | 2011.07.24 16:23

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