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「戦争請負会社」読書感想文2

この本で、戦争の外注先として実にさまざまな形態があることを知った。著者が名づけた「槍の穂先による分類」すなわち「フロントラインに近い順」に分けると、以下の3種に分類される。

  (1)軍事役務(実践と指揮)
  (2)軍事コンサルタント(助言と訓練)
  (3)軍事支援(非殺傷的援助と兵站)

(1)はいわゆる戦争の犬たち。「朝に嗅ぐナパーム弾のにおいは最高だぜ」とのたまう地獄の黙示録な人々が集っているのではなく、業務を粛々と遂行する「もと」兵士「いま」傭兵。(2)のインストラクターが研修成果の調査名目で現地入りして第一線で戦うなんてこともあるらしい。(3)はいわゆるロジスティクス。大戦略をやりこむとわかる、戦争で最も重要なものは兵站だ。そして最もアウトソースしやすいのもコレだ。

出自は軍人が大部分。元SAS、元アルファチーム、元海兵隊…と、「元××」が幅を利かせているらしいが、これにはメリットが2つある。優秀な兵士に育て上げたり、武器や兵器の錬度を上げるためには、費用がとてつもなくかかる。この費用は国家もちで済むこと。それから、リクルートするとき、「元××」の階級でレベルが一目で分かるため、人材の選別が容易なこと。

華々しい経歴は無いが、それなりの人材なら安価で大量に手に入る。どこで? 最近戦争が起こった国、失敗国家(failed country)にいけば若くて絶望した人材が豊富に手に入る。育てるのは? (2)のインストラクターたちが育てるのだ。

その結果、高い戦闘能力を持つ人材を安価に手に入れることができる

また、戦争請負会社の多くは「バーチャル会社」として活動しているという。つまり、いわゆる「常備軍」や社屋などを持たないことで固定資産を抑制する。また、ネット取引や人材派遣方式を採ることで、実際に契約が発生した後で人をかき集める。人だけではない。あらゆる商売道具(兵器や軍用品)は在庫だ。必要になってはじめて国際市場で購入したりリースしたりする。テンプスタッフのやり方と同じ。

その結果、戦争サービスの提供という本来業務にリソースを投入することができる

戦争請負会社がどこで儲けるかについて、本書では非常に詳細に解説している。フロントラインの向こうにある鉱山・天然資源の利権そのもの。西側(死語だ…)の NATO標準軍事行動という知的財産も売り物。あるいは合衆国政府や国連がお得意さまという会社もある。面白いのは、軍事知識のコンサルタントとしてハリウッド映画の脚本をレビューしたり、英国海軍に原子力潜水艦の運用と整備を教えたりする「民間会社」もある。

ある戦争請負会社が提案する「トータルソリューション」が興味深い。

MPRI社が提供する一括提案は、一個の軍隊を底辺から完全に改革し、NATOの標準に仕立て上げる。MPRI社の人間が米軍で現役だったときに与えられた教本をそっくり真似たもの。結果は外国の軍隊に「アメリカ式軍事行動」を教えるという点で、国際貿易取引の他分野において働いている力学を軍事分野に持ち込むものであり、知識という資本を豊富なところから乏しいところへ移す。(本書より引用、太字化はわたし)

どっかのコンサルティング会社がやっているように、ステイツの慣行をスタンダードとして「輸出」する。クリティカルチェーンでもISOでもCMMでも何にでも置き換え可能。こうして、米国式行動様式がグローバルスタンダード(これも死語)になる。

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金融再編残酷物語(日立の場合)

メガバンク再編・統合の場合、システム対応は「片寄せ方式」を採るのが常識。いわゆる日本的な「足して2で割る」やり方の最悪例は2002.4のみずほ銀行の大規模システム障害だろう。みずほフィナンシャルグループの中の人は

   第一勧業銀行(富士通)
   富士銀行(日本IBM)
   日本興業銀行(日立)

だった(カッコ内はシステムベンダー)。基幹系/勘定系に限らず深くビルトインされたシステム(っていうか"業務"そのもの)を奪られるということは、自社システムの「死」を意味する。激しい営業攻勢の結果、第一勧銀(富士通)への片寄せに決まるのだが、主導権争いで時間を空費している間、暫定的に三行の基幹系システムを残し、リレー接続でしのごうとした。結果はご存知のとおり。マスゴミ論調が、あたかもベンダーのエラーであるかのような物言いにアホらしくてコメントできなかったのはわたしだけではあるまい。

銀行の再編・統合はそのままシステムの覇権図を変えることになる。合従連衡にひきずられる形でその図は塗り変えられてきた。

統合後の名称練成元1練成元2片寄せ先(勝ち組ともいう)
東京三菱銀行三菱銀行(日本IBM)東京銀行(富士通)日本IBM
三井住友銀行住友銀行(NEC)さくら銀行(富士通)NEC
UFJ銀行三和銀行(日立)東海銀行(日立)日立

そして今回、「三菱東京(日本IBM) vs UFJ(日立)」の統合では片寄せ先は日本IBMになり、2007.12までに一本化する見込み。これで日立は四大メガバンクの勘定系システムから完全に脱落する。

UFJにどれだけ張っていたかは、次のとおり。

アウトソーシングの契約金額は10年間2500億円といわれている。受託と同時に日立キャピタルがUFJ銀行の勘定系システムを保有資産の名目で500億円で購入。さらに勘定系システムを開発してきた合弁会社をUFJ日立システムズに改組した。日立がここまで踏み込んだのは「UFJは最後の砦。何が何でも守り抜く」(日立コンピュータ部門元幹部)/選択2005.5より

銀行などのでかいシステムの場合、開発元が提供するシステムは情報サービス請負の形で契約する。つまり、納入するシステムはプログラムやサーバー/メインフレームの集合体という「モノ」ではなく、それらで実現できる業務サービスの価格がもらうべき値段というわけ(いわゆるシステムの値段が投入した人月の総合計とまったくもって一致しない理由はここにある)。

また、顧客・請負の両方にフェータルなシステムだと、リスクを丸出し(丸投げではない)するために共同で会社を作るのだが、このUFJ日立システムズに突っ込んだ2500億円+500億円の何割が戻るかは不明。ソフトウェア資産の場合、切り売りしたりパッケージ化するなんて、おいそれとできない。その費用がまた掛かるからだ。

「日本に銀行が多すぎる、2つで充分」某大臣がいったとかいわなかったとか。銀行再編イス取りゲームの敗者は、行員だけではない。トップセールスの失敗をモロに被るSE/PG/PMらの阿鼻叫喚が聞こえる。

この中から、悪のプログラマが誕生しないことを切に願う。

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ネタ元:情報誌選択5月号「UFJを失った日立製作所の衝撃」

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「戦争請負会社」読書感想文1

「パイナップルアーミー」や「マスターキートン」をご存知だろうか? 一見さえない主人公は、実はスゴ腕の傭兵(または特殊部隊)だった、というマンガ。ミリタリーネタ満載で「スペナッズ」だの「ハインド」を知った。その当時からずっと疑問に思ってたこと↓

   Q: リタイアした兵士、冷戦終結でリストラされた軍人はどこへいったのか?

この問いに対し、見事にそして恐ろしいほど精確に答えてくれるスゴ本が「戦争請負会社」。もちろん、兵役をリタイアする大多数は民間で「普通の」仕事に従事することになるだろう。しかし、次のコメントを読んでほしい「僕は18才で陸軍に入り、42で除隊しました。兵隊のほかに何ができるというのでしょう?僕に選択肢なんかありませんよ」これはロンドンの戦争請負業で働くサラリーマンの発言。

   A: 「民間の」軍事・軍需関連の企業へ「再就職」する

その割合こそ分からないが、チェイニー米国副大統領の発言(2000.9)から推して知るべしだろう。

過去10年間、わが国が世界中で行う介入は300%も増した。しかし、わが軍は40%も削減されている "Cheney's Firm Profited from'Overused Army'," Washington Post Sep 9,2000

もちろん、ステイツがイラクへ軍事展開する際、「兵士」のほかに多数の請負会社が参加しており、「戦争の民営化」などと揶揄気味な報道されていることは知っている。また、アブグレイブ収容所における犯罪は「兵士」以外の民間人(つまり軍務請負会社の社員)も関わっていることも知っている。

しかし、これほど組織的かつグローバルに展開・浸透で切っても切れない関係になっているとは思わなんだ。翻訳がアレだが強力にお勧めできる、こいつはスーパースゴ本、2005年No.1スゴ本なり

民間軍務請負企業、すなわち戦争請負会社はPMFと呼ばれている。Privatized Military Firm の略。ひとくちに「軍務請負」といっても訓練、戦闘、兵站、補給、作戦支援、紛争事後処理と多岐広範囲に渡る。本書では「戦争に関連する専門業務を売る営利組織。軍事技能の提供を専門とする法人」と定義している。

つまり戦争に関するサービスを売る会社。つまり、銃器や対空ミサイルといったモノを売る「死の商人」ではなく、「AK+部隊」、「スティンガー+そのインストラクタ」といったように、戦争に勝つためのサービスを提供する会社。地球上の必要な場所へ必要な時期に制海・制空込みで小隊を展開させる能力を持つ「IT企業」もあれば、米国陸軍一個師団分の糧食と生活空間を1週間以内に提供できる「建築会社」もある。

こうした戦争請負会社は、再就職先として優れた「バッファ」であることに気づかされる。冷戦後の軍人大安売り市場、紛争終結地域で大量発生するリストラ軍人たち。通常の失業なら政府のハローワーク対策ですむが、元軍人の失業(それも大量の)なら、国家に対し一種の脅威たりうる。こうした「元」軍人たちに仕事を与える企業は安全弁となるだろう。

例えば、旧KGBの7割近くが軍事請負業に入った("Strategic analysis" 22 Dec 1998)という。ロシアの国家としての安全保障に寄与しているといえる(言い換えると、リスクの輸出ともいうかもしれんが)。あるいは2001年に民営化された米国海兵隊炊事兵の例を挙げてもいい。糧食・兵站業務に携わる1100人の兵士が「兵士」でなくなった。

人員の異動は技能・知識の流出のこと。2000年10月、ロシア海軍はBRS社の子会社と、沈没した原子力潜水艦クルスクを引き上げる仕事を契約した。契約推定額は900万ドルで、ロシアが戦争請負会社と契約した最初の事例とされている。さらに2000年11月には、同社は米国の防衛脅威削減局のプロジェクトに参加し、戦略兵器削減協定(START)の下で大陸間弾道ミサイル(ICBM)の解体を行っている。パキスタンのカーン博士を中心とした「闇の」核兵器拡散ネタがマスゴミ国際面を賑わせているが、この本を読む限り、正門から流出していることが分かる。

つまり、正規の兵士が減る一方で、民間の戦争請負業が増えているのだ。

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「戦争請負会社」読書感想文2
「戦争請負会社」読書感想文3
「戦争請負会社」読書感想文4
「戦争請負会社」読書感想文5(最終回)

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