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時限爆弾を解除する読み方「盤上の敵」

 とても面白し。ところがamazonレビューでは「傷ついた」「落ち込んだ」「世の中の不条理を考えさせられた」が続出[参照]。何で? これのどこが「読後感サイアク」なのだろう… と想像して思いあたった!

 【警告】「盤上の敵」でヘコむような人はこの作品を読むなかれ【警告】

  1.隣の家の少女(ジャック・ケッチャム)
  2.獣舎のスキャット(皆川博子)
  3.暗い森の少女(ジョン・ソール)

 薬は毒であり、毒は薬にもなる。両者の違いは"量"だけ。上の三冊は間違いなく劇薬なので、耐性が無いと壊れる。世の中、知らないほうがよかったことのほうが多いはず。おそらく「盤上の敵」は蚊の吸血の場面でヘコんだんだろう。そんな人にとって1.の究極の虐待シーンや、2.や3.のラストは間違いなく猛毒。

 優れた(≠良い)小説は読む人に強い力を与える。それがポジティブなら問題ないが、ネガティブにドライブされるときが恐ろしい。ほとんどの人はネガティブな小説なんて無いと思っていて、ほとんどの人は劇薬小説なんて知らずに生きていく。ときに深淵を覗き込むために劇薬を「少量」手にするのもよいが、読みすぎ注意。
 

 我が家に猟銃を持った殺人犯が立てこもり、妻・友貴子が人質にされた。警察とワイドショーのカメラに包囲され、「公然の密室」と化したマイホーム!末永純一は妻を無事に救出するため、警察を出し抜き犯人と交渉を始める。はたして純一は犯人に王手(チェックメイト)をかけることができるのか?

 あらすじはこんなの。著者の「文庫版まえがき」と目次を見た時点で叙述系ノベルだと判定。「現在」と「回想」を織り交ぜて進行するやり口は典型的。以降、まるで時限爆弾を解除するかのように読んだ。こんな「ダマされないぞ」的な読み方は面白さを削ぐのでマネしないように。ヒントになるので反転表示にする。まず、この設定でどうやったら「ラストであっと驚く」ファイナルストライクになるかを考える。

  • 私≠「現在」
  • 妻≠「回想」
  • 私≠「プレイヤー」
  • 妻≠「人質」
  • 犯人≠「犯人」
 次に、「不自然らしさ」「伏線」に着目して読む。「不自然らしさ」から上の可能性を消していく。残ったものが「正解」で、「どうすれば読者(=わたし)がびっくりするだろうか?」を自問しながら読めば容易。

 結局、絞込みはできた(合ってた)。伏線は「伏線」だとチェックできた時点でラストへ。それでも面白かったなり。カーチェイスの場面なんて手に汗握ったなり←それすら「伏線」だったことに気付いて喝采!

 こういうお話そのものに「仕掛け」を施してあるものを叙述系という。物語の構造や人称をいじることで、「あっと驚く」ラストを目指している。「ハサミ男」「慟哭」「殺人鬼」などを読んだが、おなか一杯。読者を騙すことそのものを目的化した書き手は、いずれ見放される。あるいは私のようなヒネた読者になるので、読まないほうがよいかと。

 それでも好きだという方には、究極の叙述系をどうぞ→ Ever17 …これは小説ではなくテキストアドベンチャーゲーム。極上のトリック。萌えてもいいが、このお話はスゴすぎる。これを超える叙述系があれば教えて欲しい。

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