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「戦争請負会社」読書感想文3

この本を読むと、戦争請負会社のメリット/デメリットがよくわかる。メリット/デメリットは立場によっていかようにも解釈できる。ここでは発注者の立場で書いてみる。

まず、「安全保障」をカネで買える。カネさえあれば自国民のリソースを使わずに安全保障を「雇う」ことができる。もっとカネがあれば、自国の脅威を予め排除するための行動(即ち戦争)を起こすことだって可能だ。20世紀の戦争は莫大な兵士、装備、物資、それからカネを必要としたが、今はカネだけでいい。

たとえばサウジアラビアはたくさんのPMFを雇い、計画策定や訓練から兵器類の整備補修にいたる一切のことをさせている。こうした請負契約のおかげで、この王国は高度に機械化された軍隊を出動させることができる。その軍隊は中東で最も進んだ軍隊の一つであり、間違いなく、国民を基盤にした軍隊では見込めない高い能力を持っている

他国の例と逸らすなかれ。むかし「水と安全はタダ」だと思い込んでいる某国民がいたが、ミネラルウォーターは普通になったし、セコムや綜合警備保障も一般化しつつある。区や町単位でセキュリティガードを導入する日も近いだろうが、カネあらばこそ。おもちゃではない「防犯グッズ」も然るべきところでそれなりのカネを出せば、殺傷能力の高いやつが手に入る。セキュリティのレベルがカネで左右されるようになると、当然のことながらカネ持ちがその恩恵に浴することになる。カネ持ちは優れた警備会社に資産を守らせることができ、そうでない連中はありもしない公的手段に頼ることになる。

次に、戦争請負会社は良い隠れ蓑になる。ステイツの例が顕著だ。米軍が正式にかかわれない場所に入ることができる。米国の外交施策を推進する上で見せたくないものを「民営化」というラベルを貼って外に出すことができる。問題が起きたときも楽だ。それは一企業がやらかしたことであり、政府は関知しなかったと言い張ればよい。政治リスクのアウトソースというやつやね。一方で、請負会社のほうも「企業秘密」という煙幕を張ることができる。国際問題化することが多いため、司直の手からも逃れやすい。

通常、政府が「軍事介入を行う」外交施策を採用した場合、政府内部、立法、司法の三者から監査を受けることになる(三権分立のお題目)。さらに情報公開法の下にマスゴミ・国民に公開されている。しかし、民間企業を活用し、軍事施策のアウトソーシングにより、民主主義的手続きをショートカットすることができる。

米軍が海外へ展開される場合、国防総省には、法律によって議会やマスコミの質問に答える義務があるが、民間企業にはそれがない。議会は公式の政策にしか権限を有せず、民間企業に及ばない。企業との契約金額が5000万ドルを超えたときのみ、議会へ通知される。

当然のことながら、情報公開法の対象は、1回分の契約の金額が5000万ドルであるところがミソ。悪名高き「随意契約」はさすがにステイツでは認められないだろうが、似たような穴ならあるでしょうな。

たとえば、アブグレイブ虐待事件に関与した米国陸軍兵士が相応に軍法会議かけられているが、米国陸軍の調査報告書で名指しされた民間契約者はただの一人も告発されていない。米国陸軍はたとえそうしたくても裁判権さえないと見ているからだ。

軍が国家に所属する限り、その行動は法によって制限を受け、法によって情報公開される。しかし私企業がなり代わったときはその限りではない。もちろん法的制限はあるが、それは企業に適用される法であることがミソ

最後に、戦争請負会社と契約できるのは、国家とは限らないところがメリット。本書の序盤でローマの傭兵から始まって、軍事史が延々と書かれている。「いま」を知りたい私には正直辟易したが、ここで腑に落ちたことは→軍事力が国家に所属する歴史の方が短いこと。ガッコで教えられた歴史は戦争の歴史でもあった。しかし、ウエストファリア条約以前に「国家」の概念はなく、軍隊を所有する個人・集団が自らの利益のために起こした争いごとを「戦争」と定義するべきだろう。東インド会社の例なぞは好例なり。言い換えると、もともと戦争は民営化されていた。ウエストファリア条約は国家の概念をうちたてたが、これは「戦争の国有化」がなされたに過ぎない。

カネさえあれば戦争を起こせる好例は、イギリス元首相の息子マーク・サッチャーが関わったとされる、赤道ギニア共和国の石油利権を狙ったクーデターだろう[参考]。クーデターは未遂に終わったが、元SAS隊員で構成された64人の「軍隊」で大統領府の占拠を試みるという話。まさにF.フォーサイスの小説そのものだがネタじゃない。

カネを持ってるなら自分が当事者になる必要はない。昔の「軍事介入」は紛争場所へ出かけていってドンパチやっていたが、今じゃ国際金融機関から戦争請負会社へ振り込んでおくだけでカタが付く。ボスニア、イラクへの援助を行った当事者(国家ではない)は、MPRI社を利用したらしい。

自国の兵員をまったく送らず、MPRI社が提供する訓練と装備計画の資金の面倒を見る。こうした新しい形の援助の理由付けは、同盟国の先頭に資金提供国が巻き込まれる公算が低いというもの。それはまた、軍事援助の提供者はもはや国家である必要がない、ということを意味する。非国家的な行為者は、裕福な個人も含んで、貴重な潜在的同盟者になることができ、間接的に現地の軍事的均衡をかたむけたりすることを、遠く離れたところからさえもできる。

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【まとめ】戦争請負会社に発注するメリット
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  1.自国のリソースを使わずに、安全保障を買える
  2.見られたくない軍事政策の隠れ蓑になる
  3.個人でも戦争を起こせる

  ただしカネ持ちに限る

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