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「ソフトウェア企業の競争戦略」読書感想文4

日本のプログラマは優秀だ。コスト意識が高く優れた品質のソフトウェアを作ろうとしている。しかし、そんな優秀なプログラマがいる日本企業が世界を変えたり、誰かが大富豪になったりしない理由はカンタン↓

コスト意識はあるかもしれないが、ベネフィット(利益)意識をもつ人はいない

コストを削減し生産性を上げることは非常に重要。しかし、それで莫大な利益をもたらしたり会社が安泰になったりすることは、ぶっちゃけありえない。「生産性の向上で○%のコスト削減!」は耳タコだが、「このテストが今週中に通って出荷できれば○千万円の利益が見込めるが、来月までズレこめば○千万円の損だ」なんて聞いたことがあるかだろうか?

「それはプログラマの仕事じゃない!」という反論は、そのとーり。ワタシも激しく同意。その仕事はプログラマの仕事じゃないことは認めるとしても、ビジネスとして会社をやっていくのであれば、会社の誰かがやっている仕事、だよね?

その仕事をプログラマが引き受けてしまった場合、悲劇がうまれる。

この本には、エクスプローラとネットスケープのブラウザ戦争の話が出てくる(以下IEとNN)。モザイクやネットスケープが普及し、IEが参入した頃の話だ。Windowsにバインドさせるマイクソロフトの販売戦略により、最終的にネスケが敗れ去ったと記憶しているが、著者は別の観点から分析している。

マイクソロフトが当初リリースしたIEは酷いものだった。非常に不安定なしろもので、ブラウザがフリーズするならまだしも、青画面まで引き起こすようなものだった。機能も貧弱で、NNと比較するのが気の毒なぐらいだった。

初期のIEを開発したプログラマは、その出来栄えに充分満足して出荷OKをしたわけではないことはわざわざ言うまでもあるまい。むしろ出荷判定にかかわっていないまま「知らないうちに」リリースされていいたんじゃないかと勘ぐる。

酷かろうがなんだろうが、あのタイミングでブラウザ市場に参入できていなかったならば、マイクソロフトは永久に「ブラウザ」を出荷することはなかっただろう。バグだらけで不安定だったとしても、リリースするタイミングは純粋にソフトウェア「ビジネス」として下されたと確信する。品質やコストを重視するのは大切だが、「ビジネス」ではシェアを奪らなければ意味が無い。市場参入のタイミングや、OSにバインドする売り方は、プログラマからすれば正気の沙汰とは思えないが、その決定はソフトウェアの品質やコストとは別の次元で決定されていた筈だ、間違いなく「プログラマ」ではない人によって。

一方でネスケのNN開発はどうだったか? 著者によると、アーキテクチャのモジュール化をほとんど考慮する間もなく、1994-96にかけてコードベースを10万ステップ→300万ステップに拡大したという。その原因は「市場の圧力」即ち「より多くの機能を!」に応えた結果だ。より多くのプラグインを、より便利なショートカットを、よりグラフィカルにetc… 

結局のところ、規模がある臨界点を越えたときから、開発チームは200人全員で二人三脚レースをしているようになってしまった。本当に速いスプリンターがいたとしても、全員の足がつながっているため、最も足が遅い人のスピードで走らざるを得なくなっていた。誰かが失敗したわけでもないのに、チーム全体がつまずいたり、遅くなったりするのがあたりまえの状況となっていた。誰かが「もういい、ここでいったん切り離そう」と言わない限り、200人201脚は離れなくなってしまっていたのだ。

マイクソロフトはソフトウェア「ビジネス」を追求した。彼らはビジネスとして利益を追求するための判断をした。たとえそこに、ユーザーやプログラマの意思が除外されていたとしても、ソフトウェア「ビジネス」としては正しい判断だったのだ。

「ビジネス」の視線を最も端的に表現した発言を引用する。マイクロソフト副社長、クリス・ピーターズの発言だ。太字化は私。自分のblogはときどき読み返すが、この引用文は頻繁に読み返す必要がある、この単純極まりない事実をよく忘れるので。

マイクロソフト事業部門のメンバーの職務は、全員が全く同じです。それは製品を出荷することです。コードを書くことでも、テストをすることでも、仕様書を書くことでもありません。製品を出荷することが仕事なのです。コードを書こうなどと考えることすら避けるべきでしょう。コードを書かずに稼げるのであれば、是非そうしたいものであります。

問題へ戻る。

利益を意識して仕事をする人がいない

問題はここにある。なんちゃってSEや駄目プログラマや能書きマネージャが問題なのではない。そんな奴ぁ日本に限ったことではない(ディルバートを見よ!)。一部のグズが全体の足を引っ張っているなんて、ソフトウェア産業に限ったことですらない。

ソフトウェア「ビジネス」として成立させるための努力を措いといて、「コスト」「品質」「納期」の徹底さえできれば良しと考えている経営が真の原因なり。もちろんそれらは重要だが、ビジネスとして必要なのは、利益を出す、しかも出しつづけること。先に述べた「製品を売って、サービスで稼ぐ」しくみを続けていくこと。やりかたはここで書くのが恥ずかしいぐらいあたりまえだが…

  1. 市場を見極め、必要な技術、人材、資金を集める。銀行ごと買ってもOK
  2. 製品を作る。作らなくてもヨソから買ってきても可だし、製造会社ごと買ってもOK
  3. 製品を売る。販売部隊を買ってきても可だし、営業会社ごと勝手もOK
  4. シェアを奪う、あるいは開拓する。「売」らなくても可。シェアを奪るためであればタダでも可
  5. サービスで継続的に稼ぐ(バージョンアップなどそのサービスを受けつづけざるをえない状況を作る)
  6. ↑のやり方を「業界標準」化することで、自社と業界そのものをバインドさせる
  7. ↑で得た自社株やブランドを元手に1へ戻る

あれ? どこかでこのやり方を目にしたような…なんのことははい、孫正義氏がやっているやり方ではないか。毀誉褒貶が激しい人物だが、彼がやっていることは「ビジネス」なんだと思う。日立や富士通と比較した場合、「人材」レベルでは雲泥の差のソフトバンクが(失礼!)そうした大企業と伍している(ように見える)のは、ソフトウェア「ビジネス」とソフトウェア「ファクトリー」の差なんだろうねッ。

近い将来、孫氏は大富豪になるかもしれないが、大企業のあるマネージャが大富豪になる可能性は、ずっと低いだろう。孫氏が世界標準となる技術を手にする(開発する、ではないよ)可能性はあるかもしれないが、大企業のあるマネージャがそうなる可能性は、ずっと低いだろう。

(つづく)


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ビジネスとしてのソフトウェア 「わたしが知らないスゴ本は、きっとあなたが読んでいる」 さんの「「ソフトウェア企業の競争戦略」読書感想文」シリーズが面白い。 ... [続きを読む]

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