第11章:プロジェクトリスクマネジメント(その3)
ここでは、プロジェクトリスクマネジメントをまとめます。
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keywords
・定性的リスク分析
・前提条件のテスト
・データ精度の等級付け
・定性的リスク分析のアウトプット
・期待値
・デシジョンツリー
・モンテカルロ・シミュレーション
・定量的リスク分析のアウトプット
ステップ3 : 定性的リスク分析
…とは、リスクの起こりやすさとインパクトを評価するプロセスのこと。具体的には以下の通り。
- どのリスクに対しどういった行動を取る必要があるか決める
- ステップ2 で洗い出したリスク一覧について、その発生確率とインパクトを主観的に分析する。それぞれのリスクについて相対的に「高中低」だの「Level1~10」といったポイント付けをする
- どのリスクを定量的分析の俎上に乗せなければいけないか、あるいは不要かを判断する
- 重要でないリスク、あるいは優先度の低いリスクをいったんドキュメント化する←定期的に見直して優先度が上がっていないかチェックする
- リスクランキングを作る
リスクの発生確率とインパクトについて。起こりやすさと起きたときのヤバさ加減ね。「定性的」分析なので、リスク同士の相対的なランキングができればよい。高中低、レベル1-10など、付け方はお好みで。「ぶっちゃけありえない」や「確実ッ!コーラを飲んだらゲップをするってことぐらい確実」なども可。
前提条件のテスト(p.135)
リスク分析の過程でする疑問「もし○○だったなら、プロジェクトはどうなるのだろう?」…たられば質問は通常忌み嫌われるが、ここではOK。プロジェクト前提条件がどこまで確実なのか、そして間違っていた場合どういう影響があるのかをこのフェーズで検証する。
いろいろあるが、メンバーとスケジュールについての前提条件はやっておくと吉かも。例えば…
- 「チーフプログラマの彼が突然抜けたらどうしよう?」
- 「工程でこの時期はちょうど年末年始と重なる。人海戦術が必要なのもこの時期。インフルエンザとか流行ったらどうしよう」
- 「スケジュール2ヶ月前倒しされたらどうしよう」
手を打つ/ほっておくは別として、直前になってあれこれ悩むよりも、今考えてハラ据えておく。発生度*インパクトを考慮して、「放置する」という結論を下したとしてもそれはそれでOK。予想が間違っていたのであれば、正せばよい。ダメダメなのは「考えてませんでした」
データ精度の等級付け(p.135)
「そのリスクを把握するために、データはどこまで正確でなきゃいけないのか?」に答えるための表がp.136図11-2のこと。言い換えると、図11-2で表現できるぐらいデータが正確でなきゃいけない、ということ。
例えば図11-2の「コスト増5-10%」と「コスト増10-20%」とあるが、それぐらい正確に測るためのモノサシを予め準備しておけよ、ということ。これはコスト/スケジュール/スコープ/品質の全てについていえる。目盛は相対的なもので良い。なんたって「定性的」分析なのだから。正しいモノサシを手に入れるため、以下の検討を行う。
- リスクの理解度
- リスクに関する入手可能データ
- データの質
- データの信頼性と完全性
- データの安定性
これは各自の会社で使っている「テンプレート」をそのまま使えるだろう。似たようなものはどこの業界でも、どこの会社でもあるはず。「過去の事例」やら「標準共通フォーマット」やら、いろいろな呼び名があるはず。自社が何にどれだけデータ精度を求めているかをPMBOKと比較してみるのも一興かも。
定性的リスク分析のアウトプット(p.136)
以下のアウトプットがある
- リスクランキングと優先順位:重要度と緊急度の高い順のリスクランキング
- 追加分析が必要なリスクと、マネジメントが必要なリスクのリスト:全てのリスクに対応しているわけでもなし。追っかけが必要なリスクをピックアップしておく。クリティカルでないリスクはドキュメント化し後に再レビューする
ステップ4 : 定量的リスク分析(p.137)
リスクのインパクトや発生確率を数量的に分析することを目的とする。数量化することで、
- それぞれのリスクがプロジェクトに与える影響度を考慮し、どのリスクにどの程度注力するかを決める
- どの程度達成可能かをはかる。例えば「プロジェクト目標を半年で達成できる可能性は60%だ」「2000万円で実現できる可能性は70%だ」
- 必要となるコスト・スケジュールのコンティンジェンシー予備の規模を決める
- 現実的なスケジュール・スコープの目標を定める
通常、定量的リスク分析は、定性的リスク分析の後に行う。まず、定性的リスク分析によりリスクを洗い出す。次に、識別されたリスクを元に、プロジェクトの資源(人・時・金)でまかなえるかを定性的・定量的に分析する。定量的リスク分析は、具体的に次のような作業を行う。
- 優先順位の高いリスクに対しさらに分析を行う。いちばんインパクトを及ぼすリスクを特定する
- とるべき統計手法を決める。p.140の図11-5にある「ベータ分布」と「三角分布」のいずれを採用するか決める
- 専門家へのインタビュー
- モンテカルロ・シミュレーション(後述)
- デシジョンツリー分析(後述)
PMIイズムでは、定量的 > 定性的 と謳っている。数字が出ているほうがより客観性や一貫性があるからとのこと。数字なんていくらでもいじれるのだが、まぁ正論といえる。
このステップ2-4「リスク識別→定性的リスク分析→定量的リスク分析」をリスクアセスメントと呼ぶ。
期待値
選択肢を検討するうえで、コストや報酬とその確率を元に数値化したもの。数学でいう「期待値とはある試行を行ったとき,その結果として得られる数値の平均値のこと」とはチョト違うけれど、設問はこんなカンジ→「次のタスクの期待値を求めよ」んで、与えられる数字は以下の通り。
どのタスクの期待値が最も高いか? (答えはドラッグで反転)
タスク名 | 確率 | 報酬 | 期待値 |
A | 10% | 200万円 | 20万円。0.1×200=20 |
B | 40% | 100万円 | 40万円。0.4×100=40 |
C | 60% | 50万円 | 30万円。0.6×50=30 |
デシジョンツリー(p.139)
デシジョンツリーとは、p.141図11-6を見るか、この辺の図を眺めるとイメージわいてくるかも。詳細な説明はOS本舗に任せるとして、ここでは試験に出るところだけ押さえておく
- 将来起こりうるイベント・選択肢に対し、「いま」決定するためのツール
- ツリー構造となっていて、分岐ごとに「ひとつの」選択肢を取る
- 分岐には可能性(確率)とそのインパクト(普通は金)が示されていて、「金×確率」でどっちを選ぶ?という問題が出る。金は報酬の場合とコストの場合があるので注意
こんなカンジの問題で出る。普通文章にマンガがついてくるがここでは略↓
練習問題
A社にとって新規である医療分野への参入を検討している。参入にあたりパッケージソフト開発を予定している。プロジェクト開始前にプロトタイプの開発の是非を決定する必要がある。
プロトタイプを開発する場合
初期投資:2000万円
参入失敗する可能性35%、そのインパクト1200万円損失
参入成功した場合の損失はゼロ
プロトタイプ開発しない場合
初期投資:0円
参入失敗する可能性70%、そのインパクト4500万円損失
参入成功した場合の損失はゼロ
初期投資だけを見るとプロトタイプを開発するほうがコスト高のように見えるが、デシジョンツリーでは、とった行動の未来の結果も考慮に入れるため、こう計算する
プロトタイプを開発する場合の損失(期待値)
2000 + ( 0.35 × 1200 ) = 2420
プロトタイプを開発しない場合の損失(期待値)
0 + ( 0.7 × 4500 ) = 3150
従って、プロトタイプを開発するほうが将来の損失は低く済むと判断できる。
モンテカルロシミュレーション(p.75,139)
モンテカルロシミュレーションとは、以下の特徴をもつ。
- プロジェクトへのリスクを評価する方法
- 個々のタスクではなく、プロジェクト全体を評価する
- 「このプロジェクトが11月15日に完遂する可能性は85%」とか「この製品のコストが1000万円以内に納まる可能性は20%」といった結果が得られる
- そのタスクがクリティカルパス上に乗っかってくる可能性が分かる
- 不確実な因子がプロジェクトにどういったの影響を及ぼすか分かる
- コストやスケジュールにインパクトを与えるものを診断するために使う
- 計算が煩雑なため、コンピュータを使うのが普通→こんなソフトとか
「モンテカルロ」とは、もちろんカジノで有名なモナコの都市名に由来する。ルーレットやスロットは確率ゲームといえる。例えばサイコロ。次に出る目が1-6のどれかは分かっているが、どれが出るかは分からない。これと同じ。出る範囲は分かっているが、どの値が出るか(出やすいか)が分からないときに使うのが、モンテカルロ・シミュレーション。例えば、利子、人員需要、株価、在庫などなど。
この不確実性を確率分布をあてはめることにより、「起こりやすさ」を定義する。どの確率分布型を当てはめるかは、因子によって左右される。p.140図11-5にはベータ分布と三角分布の例がある。
定量的リスク分析のアウトプット(p.143)
は、以下の通り。
- 定量的リスク優先順位リスト
- プロジェクトの確率的分析
- コストとタイムの目標達成の確率
- 定量的リスク分析結果の傾向
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コメント
とてもすばらしい情報の提供ありがとうございます。
PMBOK3のP259の図11-13について理解できないことがあり苦慮
しています。
もしアドバイスをいただけるのであればよろしくお願いしいます。
図中にて$41の見積り金額に納まる可能性が12%と示されています。
この過程を自分なりに調べましたが理解できませんでした。
P256の表から最小値:31 最大値:68 最頻値:41を導き以下の
三角分布累積関数に値を代入し$41の場合の確率を求めると27%と
なりました。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%89%E8%A7%92%E5%88%86%E5%B8%83
このやり方で値が求まるのかと思いましたが値が一致しませんでした。
自分なりに色々と調べてみましたが何が悪いのかが分からない状態
です。
お手数をおかけして申し訳ありませんがよろしければアドバイス
よろしくお願いします。
投稿: ジーコ | 2007.05.10 15:10
>> ジーコ さん
ご質問にあるURLを参照したところ、三角分布の説明でした↓
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%89%E8%A7%92%E5%88%86%E5%B8%83
ここで説明されているものをPMBOK3の確率分布(p.256)にあてはめると、「その見積りがどの程度確かなのか(あるいは不確実なのか)」という議論で使う数字です。式をグラフにすると、図11-11になるはずです。
いっぽう、図11-13の累積確率分布は、「その見積りでの成功率は○パーセントになるのか」の議論で使います。図中の説明文に、
> この累積確率分布は、コスト見積りが図11-10の
> データ範囲を持つ三角分布を取ると仮定した…
とあるので、ジーコさんは同じ式を適用できると考えたのではないでしょうか… 正解は、「累積分布関数」の計算式ではなく、「累積確率分布」です(名前がとても似ていますね)。
「じゃぁ累積確率分布って何よ」となるのですが、以下のURLにある「累積確率(cumulative probability)の計算」の項が詳しいです。
http://econom01.cc.sophia.ac.jp/sda/binomial.htm
この説明は、わたしの手に負えません。PMP試験では、図11-13が予め与えられている状態から成功率を求めるようなレベルでしょう。
理解の助けになれば幸いです。
投稿: Dain | 2007.05.10 23:20
Dainさん、早速の返答ありがとうございます。
もう一度、累積確率分布をキーワードに調べてみます。
HPの紹介もありがとうございました。
投稿: ジーコ | 2007.05.11 13:57